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「そんな……なぜ瞋砂門に吾谷主がこのような姿で……。一体誰が、なぜ、このようなことを……」
動揺のあまり瞋熱燿の言葉は縺れている。
吾太雪はそんな瞋熱燿をやや冷めた目で見つめると、
「誰も何も……あの化け物。瞋九龍に決まっている」
と冷たく言い放った。彼は弱っていて、言葉も弱弱しかったが、それでも込められた言葉には怒気がこもっている。
「も、申し訳ございません! 谷主様になんということを……!」
慌てて地面に這いつくばるようにして瞋熱燿は頭を何度も打ち付けた。煬鳳は慌てて瞋熱燿を止めると「いまはそんな場合じゃないだろ!」と叫んだ。
「彼の言う通りです、谷主様。お怒りはごもっともですが、まずは脱出を優先しましょう。……それに、我々がここまで来ることができたのは、瞋公子のお陰です。彼が瞋九龍の行動がおかしいことに気づき、危険を冒して我々を瞋砂門の中に引き入れてくれたのですから」
凰黎の勢いに半ば飲まれながら吾太雪は渋々頷く。
「済まない。君たちの言う通りだ。まずはここから出なければ……そうだ!」
吾太雪は何か思い出したように隣の牢屋へ行こうとする。慌てて凰黎が駆け寄って、倒れそうな吾太雪を支えた。
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