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しかし次の瞬間、瞋熱燿の声に煬鳳たちは凍り付いた。
(どういうことだ!? 瞋九龍だって!?)
瞋熱燿が声をあげたのは、恐らく煬鳳たちに報せるためだろう。再び息を潜めながら、瞋熱燿の様子を観察する。
そこには、彼の言った通り瞋九龍が立っていた。
「お出かけなされたと伺っておりましたが、いつお戻りに?」
「今しがた戻ったところだ。なんだか胸騒ぎがしてな。……それよりも、そなたこそこんな夜更けに一体どうしたのだ?」
盟主の声は鋭く、そして重みがある。微かだが、彼が瞋熱燿の行動を訝しく思っていることも彼の口調から感じられた。
(なんて勘の良い奴なんだ……!)
一番出会いたくなかった奴が、まさにいま、脱出するというときにやってきてしまったのだ。しかも、胸騒ぎがすると言っている。実の子孫ですら警戒を緩めないところは、さすがにだといえよう。
もしも目の前で瞋九龍に凄まれたら、普通の者ならば恐ろしくて言葉を発することなどできないだろう。
しかし、瞋熱燿は彼に怯むことなく語りはじめた。
「はい。実は先日少し気難しいお客様が来られて、失敗をしてしまいました。お爺様もご存じの通り、僕にできることと言えば受付くらいしかありません。このままではいけないと悩んでいるうちに目が冴えてしまいまして。少し散歩にでようとしたところだったのです」
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