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「ふむ。まあ人には適材適所というものがある。そう思い悩むことはないだろう。今回失敗したのなら次を頑張ればよい」
「有り難うございます。お言葉、心に刻みます」
瞋熱燿は瞋九龍に拝礼をしたあと、さらに言葉を続けた。
「お爺様もお戻りになったばかりなのでしたら、きっとお疲れでしょう。今夜はどうかゆっくりお休み下さい」
煬鳳たちは生きた心地がしなかったし、瞋熱燿も同じ心境であったろうと思う。しかし彼は瞋九龍に笑顔を向け「それでは」と言って煬鳳たちの潜む場所とは別の方向に立ち去ろうとした。
「――待ちなさい」
またもや煬鳳たちは凍り付く。
うまく瞋九龍の追及をかわしたと思ったはずなのに、呼び止めた彼の声音はさらに低く、恐ろしく、底の知れない恐怖を覚えた。
心臓が弾けそうなほど激しく鼓動は刻み続け、首からは冷や汗が伝う。しかし、己の感情よりもまず先に、瞋九龍と対峙している瞋熱燿のことが心配でならない。
瞋熱燿の笑顔は凍り付いたまま、必死でなんとか表情を保とうとしている。
「なんでしょうか? お爺様」
瞋九龍はゆっくりと瞋熱燿の目の前まで近づいてゆき、彼の足元から頭の先までじっくりと見つめた。
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