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(生きていたのが不思議なくらいだもんな……)
感心しながら吾太雪を見ていると、凰黎が煬鳳の耳元に唇を寄せる。
「雪岑谷は常日頃から厳しい雪山での修行などを頻繁に行っていると聞きました。彼の強靭さはその修行の賜物でしょう」
「そ、そうなんだ」
吾太雪の話より、正直凰黎の唇が耳を掠めたことに煬鳳はどきどきしてしまった。お陰で凰黎が説明してくれたことの大半は記憶の向こうに飛んで行ってしまい、殆ど思い出すことができない。
彼がなぜ瞋砂門にいたのか、何が起こったのか。分からないことは沢山ある。しかし全てはまず、蓬静嶺について彼らの安全を確保してからだ。
「見えてきた、降りるぞ!」
鉄鉱力士が急速に高度を下げる。凰黎はその間も後を追跡されていないか入念に周囲を確認しているようだ。
「凰黎」
「……大丈夫、追っ手は来ていないようです。しかし、我々を匿える門派は限られていますから、探すまでもない、といったところかもしれません」
万が一瞋九龍が蓬静嶺に攻め込んできたら……。
考えるたび煬鳳は気持ちが重くなる。
凰黎の大切な人たちがいる場所を、巻き込みたくはないのだ。
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