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「彩二公子から聞いたとは思うが、我々も瞋九龍には何かしらの隠し事があると考えていたのだ。先ほど鸞快子と国師殿からの話を聞いて、疑念は確信に変わった」
「嶺主様。先ほど我々が運んできたのは雪岑谷の谷主、吾谷主なのです」
「なんだと……!?」
静泰還の表情が変わる。長らく閉閑修行に入っていたはずの谷主が、まさか誰ともつかぬような状態で蓬静嶺に運び込まれるとは彼ですら思わなかったのだろう。
「詳しい話は谷主様の治療を終えたあとで……」
まだ驚きを隠せない静泰還ではあったが、凰黎の言葉にすぐさま頷く。
「阿黎の言う通りだ。……我々も彼らの元に向かおう。守りは塘湖月に任せてある」
煬鳳が振り返ると、蓬静嶺の中でも実力の高い門弟たちが門壁の周りを固めている。彼らに指示を飛ばしているのが凰黎の兄弟子である塘湖月だ。少なくとも塘湖月の実力は煬鳳も知っている。瞋九龍と互角に戦えるかは分からないが、彼なら煬鳳たちが気づくまで持ちこたえることは可能だろう。
申し訳ない――そう思いつつも一先ずこの場は彼らに任せることにしたのだった。
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