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「そう仰らないで下さい。吾谷主。我々は貴方に何があったのか、瞋砂門に何が起こったのか……。国師様の遣わした方のこと、聞きたいことは沢山あるのです」
吾太雪の体が辛くないようにと凰黎は彼の背を支え「まだお辛いでしょうが、お願いいたします」と優しく語り掛けた。
「全てお話します。まず――どこから話しましょうか……」
目を閉じ、遠い昔を思い出すように吾太雪は語りだす。
五行盟の歴史は百年ほど。
発足のきっかけとなる、黒冥翳魔を封じた当時のことを知る者は既に五行盟を去り、瞋九龍以外は残っていない。
吾太雪は現五行盟の中では静泰還と比較的年齢が近く、三百年以上を生きる瞋九龍に次いで年長者である。そんな彼でも生まれたときには既に瞋九龍は英雄であったし、彼にとって睡龍の地を生み出すきっかけとなった火龍殺の瞋九龍といえば憧れの人物だ。
だから彼が前雪岑谷の谷主の跡を継いで谷主になり、五行盟の代表の一人として瞋九龍と相対したときは得も言われぬ感情があった。
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