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豪快にして圧倒的。最強の男――吾太雪にとって瞋九龍はまさに言葉通りの人物だったのだ。彼の感動は一言では言い表すことはできない。
その日から吾太雪は五行盟のために、そして瞋九龍のためにと陰に日向に邁進をつづけた。
あるときは瞋九龍の片腕として僻地に赴き、またあるときは強大な妖邪と戦うため、命を投げ出す覚悟で彼と共に立ち向かう。伝説の英雄が己の背で戦っている。そう思うだけで吾太雪は踊りだしたくなるほど心が軽く、英雄のために働けること、それが何よりも幸せであると彼は感じていた。
些細な違和感を感じたのは二人で山奥の妖邪を退治するために出向いたときだ。かつてないほどの凶悪さと強さを持った妖邪と相対し、不覚にも吾太雪は深手を負った。意識を失った彼が目を覚ましたときには妖邪の気配は既になく、瞋九龍が焚き木の傍に座っているだけ。
『気が付いたようだな。心配したぞ』
吾太雪が気を失っている間に、瞋九龍はたった一人で妖邪を倒したのだ。
せっかく英雄と共に妖邪退治に赴いたというのに、結局彼の足手まといになってしまったと、吾太雪は己の無力さを嘆いた。
瞋九龍はそんな彼に、これから強くなればいい、と優しく諭す。
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