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巨大な龍は事実この地に横たわっている。ほかならぬ瞋九龍が倒したからだ。それなのに、龍殺しの英雄である瞋九龍が実は龍だったなどというのは笑えない事実。
「恐らくは――」
皆が一斉に声の主、鸞快子を見た。
「恐らくははじめ瞋九龍は本当に火龍を倒したはずだ。だからこそ龍は倒れ伏し眠りについた。しかし、その意識は瞋九龍に乗り移り、彼の意識を侵食していった。……というのはどうだろうか? 時間をかけて瞋九龍の意識は完全に火龍のものとなる。そして、己の本体を目覚めさせるべく、行動を開始した」
つまり阿駄の言った言葉『外見は人であるがその皮の中は火龍そのもの』に他ならない、ということだ。皮肉なのは瞋九龍の一族である瞋熱燿や彼の父や祖父だろう。彼らは皆、瞋九龍の子孫でありながら火龍によって霊脈を封じられ、本来の力も発揮できぬまま日陰の者として過ごし続けていた。
そのうえ、彼らが一族の英雄だと尊敬していたはずのまさにその人が、諸悪の根源である火龍だったのだ。このような酷い話があっただろうか。
煬鳳は急に瞋熱燿のことが心配になって、彼を見た。
案の定瞋熱燿は青い顔で俯き震えている。暫くの間はこの事実を自分の中で消化させることに苦労するだろう。
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