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先ほどまで体のことなど微塵も思い出すことはなく、ただ愛しい人の家族のことを考えていたなどとは言い辛い。煬鳳は凰黎を安心させるように、努めて穏やかな声で彼に言った。
「もちろん平気だ。霊力を使うたびに熱くなるのとはまたわけが違うからな。一度落ち着けばそんなに苦労はしないよ」
「でも……」
凰黎は煬鳳をぎゅっと抱きしめる。
抱きしめるというか……煬鳳は彼の体を背もたれにして座っており、背後から凰黎に抱きしめられている状態だ。
(滅茶苦茶こっ恥ずかしい……!)
火龍を倒しに行く道中で、なぜ抱きしめられながら馬車に乗っているのか。
意味が分からないが、意味はある。
黒炎山の動きと連動して体温が上がってしまう煬鳳が、皆と一緒に歩いて黒炎山に向かうのは危険だ。頻繁に黒炎山が活動すれば、その都度煬鳳も歩みを止めて苦しまなければならない。
今のところ、そういった事態にはなっていないのが幸いではあるが。
そんな感じで皆に心配された結果、なぜか『馬車で馳せ参じる』ことになってしまったのだ。
とんだ特別待遇になってしまった。
役立たずだと自分でも思うが、蓬静嶺とて無造作に嶺内に転がしておくわけにもいかないだろう。
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