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「凰殿の話によれば、はじめに体温が上がったのが恒凰宮でのこと。いかに火龍の目覚めが近いとはいえ、間隔から推察するに、次の地震にはまだ余裕があるはずです。恐らく黒炎山で瞋九龍と相対したとしても、次の揺れがくるのはもっとあとになると思います」
同じく馬車の中で清粛は言った。大きな薬籠を抱える彼の隣には、吾太雪が座っている。ときおり清粛に支えられながら辛うじて体制を維持している彼の表情には、まだ疲労が色濃く残っていた。
戦うことを良しとはしない清林峰は、煬鳳や吾太雪、それに戦いで怪我をしたものがいた場合の手当てなどをするつもりなのだ。
「吾谷主、まだ座るのはお辛いでしょう。私は馬車から降りますので横になってお休み下さい」
辛そうな彼を気遣って、清粛が言った。しかし、吾太雪は自らが望んだことであるからとそれを頑なに断っている。白雪のような彼の袍服は、凰黎曰くかつての彼が好んで着ていたものに似たものであるそうだが、吾太雪の深刻な表情も相まってどこか死地に赴くかのような悲壮感と揺るぎない覚悟を思わせる。
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