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「いや、ただ心配になっただけだ。……これから瞋九龍とやりあわないといけない。はじめは火龍を鎮めるだけのはずだったけど、あいつの意志が瞋九龍の中にあるのなら、絶対に避けて通ることのできない戦いだ。だから……」
瞋九龍の強さは本物だ。中身が火龍であるのなら尚更なのかもしれないが、その強さは圧倒的で、皆が語り継ぐ伝説の英雄そのものだった。
――勝てるか分からない。
数ある門派の名だたる面々も瞋九龍の討伐隊にはいるのだが、彼らの力をもってしても果たして瞋九龍を抑えられるのか。
瞋砂門で彼と相対したときのことを思い出すと、不安は拭えない。
だからこそ、今のうちに確かめたい。自分は彼にとって良い伴侶であるのか、と。
「私は……」
凰黎の手が、煬鳳の頬に触れた。どきりとして思わず煬鳳は肩を竦めた。優しく労わるように、何度も頬を撫でつける。頬を滑る掌が心地よくもあり、同時に煬鳳はいいようもない胸騒ぎも覚えた。
「私は貴方がいつも傍にいて元気な笑顔を見せてくれるのなら、十分すぎるほど元気づけられます。貴方の胸が鼓動を刻む音が聞こえたら、それが何よりの支えになるでしょう。掌の温かさを感じること、頬に触れられること……心と体が繋がっていると感じられること。どれも私にとってこの上ない幸せであり、勇気であり、支えです」
「お、大げさだな……」
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