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煬鳳の袖を引き、凰黎が神妙な面持ちで言う。
――いや、まさか?
確かに清林峰に現れた空飛ぶ牛は自分のことを鼓牛だと名乗っていたような気がする。しかしだ。しかし、いくら何でも目の前の高貴そうな青年がまさか……煬鳳はもう一度己の手を握る青年を見る。
――どこからどう見ても、牛には見えないな。
しかし煬鳳の結論はすぐに打ち砕かれてしまった。
「さすがは凰様、よく覚えていて下さいました! そうです。あのとき清様やお二方の優しさに助けられ、索冥花を譲っていただいた鼓牛です!」
「えーっ!? だってお前、どう見たっていま、人の姿じゃないか!」
「牛だって人の姿になるときもあります」
煬鳳の言葉に平然と鼓牛は言ってのける。
考えてもみれば、鼓牛は空を飛ぶ牛なのだ。帰るときも空を飛んでいずこかに帰って行った。
ならば、人の姿に変ずるくらいは造作もないことなのではないか?
そう考えたら「まあ、いいか」という気持ちになってしまった。
「実はあのときのご恩を返しに参りました」
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