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鸞快子の玲瓏たる声が響く。恐らくここが相手に気取られぬ、ぎりぎりの範囲なのだ。
「煬鳳。くれぐれも気を付けて」
「分かってるって。凰黎もな」
先頭へ向かう凰黎、そして清粛たちと後方に移動する煬鳳。凰黎は別れ際に煬鳳の額に軽い口付けを落とす。
「………………………………!」
あまりにも可愛らしい、ささやかな行為に不覚にも動揺し、煬鳳は凍り付く。
頬の熱さを感じながら、驚きと戸惑いで歪む顔を必死で押さえると、逃げ出すように煬鳳は「い、行ってくる!」と走り出してしまった。
暫く走ったあとで振り返ってみれば、風にたなびく淡青の袍服の袖が垣間見える。生憎と顔は人の波で隠れてしまったが、彼なら煬鳳のことを見ていてくれただろうか。埋もれ行く淡青の人影に何度も呼び掛けたい衝動を抑えながら何度も振り返り、煬鳳は清粛たちの方へと走って行った。
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