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鉄鉱力士のうち翼の生えた一体は、吾太雪を抱え上げている。鼓牛の霊薬がなかったら、恐らくは抱えることも難しかっただろう。
「煬鳳。こちらだ」
声に振り返ると既に鸞快子は最後尾で煬鳳を待っている。
(ここまで皆を引っ張ってきた鸞快子が切り込み役ではなくしんがりを務めるってのも、不思議なもんだ)
しかし彼はかつて蓬静嶺の客卿だったとしても、水行使いかどうかは定かではない。ゆえに彼を蓬静嶺と同列に扱うことは難しいだろう。
加えて煬鳳と二人、それに数体の鉄鉱力士だけで後方の守りを固めるなどということは、鸞快子にしかできない芸当だ。
煬鳳の視線に気づいたのか、振り向いた鸞快子の視線は煬鳳と交錯する。口元に笑みを湛えた鸞快子は、再び前方に向き直ると煬鳳に言った。
「前線には出るなと言ったが、いざ戦いになればそうも言っていられなくなるだろう。君がどういった人間なのか、私はよく知っているつもりだ。支援部隊の守護は私に任せ、君は思うままに行動しなさい。――ただし」
「無茶はするな、だろ?」
分かってる、と言わんばかりに煬鳳はにやりと笑う。
「いいや、少し違う」
しかし、その予想は少し異なっていたらしい。
「凰黎を悲しませないように」
「……」
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