10:無常因果的終結(終末)

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 煬鳳(ヤンフォン)は驚き、そして先ほど別れ際の――凰黎(ホワンリィ)とのやり取りを思い出した。あんなささやかな口付けなのに思い出すと頬が熱くなり、胸が苦しくなる。恥ずかしさのあまり思わず駆け出してしまったが故に残った、少しばかりの未練。  ――確かに、あんな別れ方のまま死ぬわけにはいかないよな。  凰黎(ホワンリィ)の触れた額にそっと触れ、もう一度思い出を反芻する。 「――ああ、もちろんさ。凰黎(ホワンリィ)を悲しませるようなことなんて、するもんか」  淡青(たんせい)の袖が揺れる凰黎(ホワンリィ)の後ろ姿。  絶対にその背を追いかけて彼の手を掴むのだと、煬鳳(ヤンフォン)は心の中で繰り返した。 「来るぞっ!」  暫く歩き、山頂が見えてきた頃に誰かの叫ぶ声がした。  赤い炎が閃き、登ってきた一同に向け雨のように降り注いだ。 「恐れることはない! 次の攻撃に備えるんだ!」  鸞快子(らんかいし)が頭上に展開した光の防壁陣は、最後尾から最前列にまで範囲を広げ全てを打ち消した。降り注いだ燃え盛る礫の雨は一瞬で霧と消え、誰一人炎が届くことはない。 「いまです!」  叫んだ声は凰黎(ホワンリィ)だった。彼の号令を合図にして蓬静嶺(ほうせいりょう)が一気に距離を詰める。霆雷門(ていらいもん)瞋砂門(しんしゃもん)、そして雪岑谷(せきしんこく)の門弟たちが姿を現し、既に交戦状態に突入している。しかし……彼らを倒すことが煬鳳(ヤンフォン)たちの目的ではないため、蓬静嶺(ほうせいりょう)の面々は専ら彼らの攻撃をいなすことに専念しているようだ。
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