10:無常因果的終結(終末)

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「よく聞けよ! 吾谷主(ウーこくしゅ)は昨日瞋砂門(しんしゃもん)の秘密の地下室に捕らえられていたところを俺たちが助け出したんだ!」  瞋砂門(しんしゃもん)の名を聞いて、周囲がざわつき、そして今度は静まり返る。  すぐに信じられるはずもないだろう。かの五行盟(ごぎょうめい)のなかでも英雄、瞋九龍(チェンジューロン)擁する火行瞋砂門(しんしゃもん)が、よもや雪岑谷(せきしんこく)谷主(こくしゅ)を捕らえていたなど、俄には信じ難いに違いない。 「聞いてくれ。儂は間違いなく吾太雪(ウータイシュエ)だ。儂が捕らえられていたことにより、雪岑谷(せきしんこく)の皆には随分辛い思いをさせてしまった。瞋九龍(チェンジューロン)の脅しにより、望まぬことに手を貸さねばならないときもあっただろう。しかし、それも今日で終わりだ。私は帰ってきた、正真正銘、儂は吾太雪(ウータイシュエ)だ」  門弟たちのすすり泣く声が聞こえる。それまで剣を握っていたものもいつの間にか地面に剣を落とし、いまはただ茫然と涙を流し吾太雪(ウータイシュエ)を見つめていた。 「儂を捕らえていたのは他でもない瞋九龍(チェンジューロン)だ。奴は人ではない! 奴は瞋九龍(チェンジューロン)がかつて倒し、睡龍(すいりゅう)の地に封じたはずの火龍なのだ! 姿は瞋九龍(チェンジューロン)だが、中身は火龍。儂は奴が妖邪(ようじゃ)を食っているところを目撃して、このように長い間、瞋砂門(しんしゃもん)の地下室に捕らえられてしまった」
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