10:無常因果的終結(終末)

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 突然笑い出した瞋九龍(チェンジューロン)に気圧され、後退る者も幾ばくか。気がふれたかのように瞋九龍(チェンジューロン)は笑い続け、先ほどまでみな剣を交え戦っていたことすらも忘れるほどの静けさと異様な雰囲気が漂っていた。 「笑止! だったら何だというのだ? 儂の体は火龍殺(かりゅうさつ)瞋九龍(チェンジューロン)であり、中に秘めたるは火龍の心智。貴様らが束になっても、儂に勝つことなどできようはずもない。どうだ?」  瞋九龍(チェンジューロン)の目が怪しい煌めきを帯びる。目は龍の眼が如く細められ、鋭く冷たい殺意が顔を出す。圧倒的な気迫の前に誰もがみな彼に向かっていくことすら忘れてしまうほどだった。 「ひとつ――聞きたい」  言葉を発したのは静泰還(ジンタイハイ)だ。誰よりも物静かな彼が誰よりも早く口を開いたことに皆が驚く。 「ふむ、いいだろう。聞いてやらんでもないぞ?」  瞋九龍(チェンジューロン)は火龍であると宣言したも同然だ。にもかかわらず、彼はいつもの盟主かのような振る舞いで静泰還(ジンタイハイ)の言葉に応えた。 「清林峰(せいりんほう)五行盟(ごぎょうめい)にまだ所属していたとき。清林峰(せいりんほう)に神薬があると、ありもしない噂を流し、他の門派が清林峰(せいりんほう)を襲うように扇動したのは瞋九龍(チェンジューロン)、そなただな」  煬鳳(ヤンフォン)凰黎(ホワンリィ)はまさかいま、静泰還(ジンタイハイ)がその話を出してくるとは思ってもいなかったので顔を見合わせはっと息を飲む。
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