10:無常因果的終結(終末)

41/64
前へ
/1358ページ
次へ
「……人間というのは欲深いものだ。清林峰(せいりんほう)は神薬を持っていて、それを己のためだけに使おうとしている。他の者たちにやる気はない――そう囁いてやるだけで誰もが清林峰(せいりんほう)を敵視する。……特に不治の病の家族を持つものたちには効果てきめんだ。あっという間に清林峰(せいりんほう)を襲撃する話は膨れ上がり、あとのことについては儂の知らぬところよ。彼らが勝手にやったこと」 「貴様! 貴様のせいで沢山の人が犠牲になったのだぞ!」  静泰還(ジンタイハイ)を見下ろす瞋九龍(チェンジューロン)の眼差しは、人のものとは異なっていた。既に彼の言動や態度、全てにおいての発言が火龍としての立ち位置に変わっているのだ。  瞋九龍(チェンジューロン)は痛な表情を浮かべ額に手をやって嘆く。 「――嶺主(りょうしゅ)の妻子がいたことは本当に不運なことであった。いかに儂とて、そこまで計算していたわけではない。人の欲望とはまことに恐ろしいもの。みなが疑心暗鬼に陥った結果、あのような悲劇的な末路を辿るとは……」 「ふざけるな! お前が、御膳立てしたんだろ!」  堪らず煬鳳(ヤンフォン)は叫んだ。そうでもしなければ、静泰還(ジンタイハイ)が真っ先に飛び掛かると思ったからだ。 「小僧。御膳立てしたからといって、こうなると予想して儂が仕組んだわけではない。儂はただ火種を撒いたに過ぎぬのだ。それを燃え盛る炎に変えたのは、他でもない清林峰(せいりんほう)を取り巻く門派たちの浅ましさゆえよ」 「聞き捨てなりません」
/1358ページ

最初のコメントを投稿しよう!

110人が本棚に入れています
本棚に追加