110人が本棚に入れています
本棚に追加
意外にも煬鳳は冷静だった。それは恐らく――彼の周りの人間が、しかも普段は穏やかで聡明な者たちがみな怒りで我を忘れかけていたからだ。
普段は浅はかな行動が多いと自覚しているが、いまこのときばかりは自分だけでもしっかりしなくては、という気になったのだ。
「みんな、聞いたろ? 五行盟は瞋九龍に成り済ました火龍のために作られた同盟なんだ! そして黒冥翳魔もまた、火龍復活のために利用された! ……もう分かってるよな、ここでこいつを止めなかったら、火龍は復活してしまうんだ!」
「その通りだ!」
後方部隊を守っていた鸞快子が叫ぶ。既に乱戦状態に入り、どこが後方なのかも分からぬ状態にはなっているが、それでも戦いには直接加わらない鼓牛や清林峰の面々の安全を確実に守っている。
鸞快子はそれまで瞋九龍の話に口を挟むことはなかったが、時が満ちたと思ったのか皆の前に歩み出た。
「眠れる龍が蘇るとき、この地は滅びる。……これは睡龍の外にある王国の国師が賜った神託だ。我々はここで瞋九龍を、火龍を倒さねばならない。先ほどまで剣を交えていた者たちも、これからどうすれば良いのかは分かっているな?」
彼の口調は玲瓏にして鮮烈、それでいて水のように穏やかだった。
最初のコメントを投稿しよう!