10:無常因果的終結(終末)

59/64
前へ
/1358ページ
次へ
 腹を貫かれてもなお衰えぬぎらぎらとした野心の眼差しは、己が負けるなどとは微塵も思っていなかった男の執念の光だった。  ふらつきながらも体勢を立て直し、剣を構える凰黎(ホワンリィ)黒曜(ヘイヨウ)たちに瞋九龍(チェンジューロン)は向き直る。彼の背後には山の山頂がもう見えていた。 「お、おのれ……! こうなったら不完全でもいい、龍の身体に戻って貴様ら全員食い殺してやる……!」  飛びあがる瞋九龍(チェンジューロン)に反応するのた僅かに遅れ、咄嗟に誰かのあげた「あっ」という叫びだけが小さく響く。 『いけない、奴は火口に飛び込んで龍の身体に戻る気だ!』  黒曜(ヘイヨウ)が叫び永覇(ヨンバ)を差し向けるが、既になりふり構っていられない状態の瞋九龍(チェンジューロン)は振り返ることもせず一心に火口へと向かう。 「ははは! これで貴様らも終わりだ!」  まさに瞋九龍(チェンジューロン)が火口に飛び込もうとしたその瞬間、脇から霜灰の影が飛び掛かった。 「ぬお!?」  体制を維持することもできず瞋九龍(チェンジューロン)は頂上付近に落ち、ごろごろと斜面を転がってゆく。瞋九龍(チェンジューロン)に重なるようにして組み付いた人物は、蓬静嶺(ほうせいりょう)嶺主(りょうしゅ)である静泰還(ジンタイハイ)だった。静泰還(ジンタイハイ)を振りほどこうと暴れる瞋九龍(チェンジューロン)に必死で組み付いたまま離すことはなく、どんなに瞋九龍(チェンジューロン)が彼を痛めつけてもその手を緩めることはない。
/1358ページ

最初のコメントを投稿しよう!

109人が本棚に入れています
本棚に追加