10:無常因果的終結(終末)

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嶺主(りょうしゅ)さま! 何をなさるおつもりですか!」  凰黎(ホワンリィ)の悲痛な叫びが静泰還(ジンタイハイ)に向けられた。  焦り始めた瞋九龍(チェンジューロン)はなんとかして静泰還(ジンタイハイ)を引き剥がそうと彼への攻撃の手を緩めない。しかしどんなに傷ついても彼は瞋九龍(チェンジューロン)を抑え、火口へは行かせまいとしているのだ。 「阿黎(アーリィ)! いまのうちに、私に構わず火龍を討つのだ!」 「止めて下さい! お願いですから、瞋九龍(チェンジューロン)から離れて下さい!」 「見誤るな!」  彼を救おうと走り出す凰黎(ホワンリィ)に対し、静泰還(ジンタイハイ)は厳しい声を投げかける。彼の揺るぎない家族への想いがどれほど深いものであるか、周りにいる誰もみな痛いほど理解した。 「ここで瞋九龍(チェンジューロン)を止めなければ睡龍(すいりゅう)の地は滅び、世界は終わる! 私が押さえている間に、瞋九龍(チェンジューロン)を倒せ!」 「瞋九龍(チェンジューロン)は倒します! でも、嶺主(りょうしゅ)さまが命を投げ出すことはないでしょう!」 「聞き分けなさい! 頼む……瞋九龍(チェンジューロン)を! 妻と子の仇を討ってくれ!」 「そんなの、嫌です!」  凰黎(ホワンリィ)の絶叫が響き渡る。  ふと、静泰還(ジンタイハイ)の表情が和らいだ。彼自身、瞋九龍(チェンジューロン)からかなりの攻撃を受け身体は相当辛いはず。  にもかかわらず、彼の口元は穏やかに微笑んでいる。
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