10:無常因果的終結(終末)

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「聞き分けのないことを言うものではない。…………そなたは誰よりも聞き分けの良い子ではなかったのか? 阿黎(アーリィ)」  死をも覚悟した、瀬戸際の静泰還(ジンタイハイ)の声に凰黎(ホワンリィ)は一筋の涙を零し、そのあときっぱりと彼に言い切った。 「私は二度も家族を、父を、失いたくはありません! 断固お断りします!」  返ってきた返答を全く予想していなかったのか、驚きのあまり静泰還(ジンタイハイ)瞠目(どうもく)し、そして僅かに彼の腕が緩む。 『任せろ!』  黒い疾風が瞋九龍(チェンジューロン)の傍から静泰還(ジンタイハイ)を連れ去った。その刹那、一筋の光が瞋九龍(チェンジューロン)の胸を貫くと、その衝撃で彼を岩壁に縫い留める。 「貴様……!」  瞋九龍(チェンジューロン)の胸に刺さったのは一本の矢。矢柄に書きつけられた文様、煬鳳(ヤンフォン)が何度か見て、何度か助けられたあの矢だ。 「このような貧弱な矢で、儂の動きを止められる思うな……! あ?」  瞋九龍(チェンジューロン)が力任せに矢を引き抜こうとした瞬間、自身の首がずるりと滑り落ち、地面に音を立てて零れ落ちた。  首だけ転がり落ちた彼は何が起こったのか理解することもできず、ただ虚空を呆然と見つめている。既に眼差しから光は失われていたが、彼の瞳が向けられた先にあったのは、彼がかつて龍として舞い上がったであろう広大な空だった。 「凰黎(ホワンリィ)……?」
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