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振り返れば、静泰還を支える黒曜と凰黎の姿。そしてその周りには彼の神侯が淡い燐光を放ち緩やかに軌跡を描いている。瞋九龍の最期を見届けた凰黎は神侯を収め、ゆっくりと静泰還を立ち上がらせた。
「……そなたに、私の妻子の仇を取らせてしまったな」
満身創痍の静泰還は、凰黎に支えられ辛うじて立っている。しかしそれでも彼の瞳は瞋九龍の首から目を離すことはなく、ようやく達成した長年の想いを遂げ、様々な想いがこみ上げているようだ。
「私は……いえ。私にとって、嶺主様はもう一人の家族です。家族の仇なのですから、当然のことをしたまでです」
凰黎は何と言おうか迷ったようだったが、それでも彼は静泰還のことを『家族』だと言った。
そんな凰黎の言葉に静泰還は目を丸くして、そして凰黎を抱きしめる。
「家族か……。そうであったな。そなたも、私にとって大切な家族。……悲しみすぎて、私はいままで大切なものが見えていなかった。許しておくれ、阿黎」
「許すもなにも……。私は昔もいまも変わらず、貴方の家族なのですから」
涙混じりに聞こえる凰黎の声。
煬鳳は二人の抱擁を、多幸感に包まれながら見守っていた。
(良かったな、凰黎……)
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