109人が本棚に入れています
本棚に追加
それまで頑なに亡き家族に遠慮をしていた凰黎が、瞋九龍と共に尽き果てようとしていた静泰還を前にして、初めて静泰還の前で彼を『父親』と呼んだのだ。
『あいつがあんな顔するなんて、意外だな』
「そりゃ、凰黎にとって嶺主さまは本当に大切な人なんだから。当然だろ?」
いつの間にか煬鳳の隣には黒曜が立っていた。
先ほど静泰還を風のように連れ去ったのは、何を隠そう黒曜だ。彼が静泰還を瞋九龍から引き剥がしていなかったら、もう少し瞋九龍を倒すのが遅れたら、火龍は蘇ってしまったかもしれない。
「それより黒曜、ありがとな。助かった」
煬鳳は隣に立つ黒曜に礼を言う。
『別に。俺もあいつに恨みがあったんだ。……それに、いまの俺たちに至るまでに、凰黎には随分と世話になっている。これくらい手助けしたってまだ足りないほどだ』
確かに、と煬鳳は笑う。
本当に凰黎には返しても返しきれぬほど世話になっている。ときには迷陣の奥へ、また別のときには高く聳え立つ霊峰に、そして魔界にまでも。
――そんな彼の、心からの笑顔が見られたのだから。
少しは自分たちは彼のために何かをすることができたのだろうか。
そうであって欲しいと煬鳳は願う。
最初のコメントを投稿しよう!