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黒き珠は夜闇の山道を昏く、明るく、照らし出しす。
「さ、行こうぜ」
驚き口を開けたまま呆然と見上げる仲眠の背を叩き、煬鳳は扇動するように促した。
* * *
先ほどは炬火を持った村人に追われ、視界が赤く染まったようにすら思えたが、今目の前にあるのは闇だけだ。微かに灯されるのは先ほど煬鳳が放った黒い珠――黒曜の昏い光のみ。
他に照らす手段が無いかといえばそれも違う。
しかし、煬鳳たちは先ほど村人に鎌を持って追いかけられた身だ。分かりやすい炎など灯そうなら村に入った瞬間に見つかってしまうかもしれない。
極力面倒事は避けて、慎重に事を運ばねばならないのだ。
しかし……。
仲眠の先導で村へと向かう煬鳳は、少々渋い顔で隣を歩く男を見る。
隣の男――仲眠は自分の周りをふよふよ浮いている光の玉が気になって仕方がないらしい。先程から何度も光の方に視線を向けている。あまりに意識がそちらに傾くので、うっかり道から外れてしまいそうになるほどだ。
「まあ気になるのも分かるけど、さっきの夫婦について知ってることを教えてくれないか」
「す、すみません!」
堪りかねて煬鳳が口を開くと、慌てて仲眠は語り始める。
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