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「人聞きが悪い。私は弱っている翳白暗の心にちょっとだけ寄り添ってやっただけさ。何も我慢などすることはない、欲しいものがあるならば、奪えばいい。なにかを傷つけることを恐れてはならない、欲しいものがあるならば全てを壊してでも手に入れろ、ってな。結局、その言葉に傾いたのはあいつの弱さのせいさ」
「お前、このっ……!」
翳黒明は剣を抜き閑白に斬りかかろうとした。しかし、さきほど生み出された翳冥宮の人々がその前に立ちはだかると、剣を振りかぶることができず、後退る。
「宮主に婚約の話を持ち掛けたのも私さ。富豪をその気にさせたのも私。婚約の噂をあちこちに流しまくったのも……」
「髪飾りのことを……あのとき俺に嘘を教えたのもお前だったな!」
「……それは違う」
真顔の閑白は呆れたように吐き捨てる。
突然思いもよらぬところで閑白に否定され、それまで烈火のごとく怒っていた翳黒明から不意に怒気が抜けた。
「なんだと……?」
閑白は面倒臭そうな顔で「何でもかんでも私が嘘を言ったと思われても不本意だ」と続ける。
「全てを私のせいにするんじゃない。いいか、髪飾りのことについて私はいっさいの嘘は言っていない。翳白暗は確かに『想い人のための贈り物』を作っていたんだからな」
不敵に笑う閑白。
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