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「本当にこの場所に翳冥宮の人々の魂魄があるのなら、ここまで激しく閑白は怒り散らしたりしないだろう。本来であれば今に至るまでの間にもっと彼らの魂魄を利用していたはずで、出来なくなったからこそ小宮主に怒りを向けたのだ。先ほども言ったが、あの術は姿形を写し取っただけの、存在しないものを、さも存在するかのように作り出す。実体を持った幻術のようなものであり、そこに当人の意志も魂魄も必要としない」
涼しい顔で凰黎と会話を続ける凰神偉に、閑白が顔を真っ赤にして怒り散らす。
「おのれ恒凰宮の宮主! 余計なことを!」
閑白が袖を振れば、紙傀儡たちが凰神偉に襲い掛かる。凰黎と同じ色の淡い燐光を凰神偉が纏えば幾多の光の剣が降り注ぎ、紙傀儡たちを縫い留めた。
「万物の理に於いて、紙は人に非ざれば、幻もまた真実に非ず。則ち紙人は紙に、幻は無に。――天地の常経に従いて、急々として太上の勅命が如くせよ。……消え去れ!」
凰神偉の声に呼応するかのように、淡い光に包まれた紙傀儡は次々に人の姿を失い、元の紙へと還ってゆく。
――まるで、元からそこには何も存在しなかったかのように。
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