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まさに彼の言う通り、幻は幻であり――何も無かったのだ。
煬鳳はほっと胸を撫でおろし、凰黎に向かって微笑んだ。思えば本当にあれが翳冥宮の人々であったのならば、悲しみの感情で埋め尽くされてこの場所は淀みきっていたかもしれない。そう考えれば、やはり凰神偉の言ったように、彼らはただの姿だけを写し取った幻の存在というのも納得のゆく話だった。
「ふ……ふふふ……」
己の手駒が消えたというのに、閑白は動揺もなく笑っている。確かに彼は小細工など使わなくとも十分すぎるほど強い。だからなのだろうか、煬鳳は閑白の様子をじっと見つめた。
「なかなかやるじゃないか。それならこいつはどうだ?」
この状況を楽しんでいるのか、閑白の声は楽しそうに聞こえる。先程まで怒り狂っていた人物とは思えない。それか――余程とっておきのものがあるのだろうか。
閑白は白い羽を投げつける。
匕首へと姿を変えた羽は、凰神偉に襲い掛かったが、凰神偉は袖のひと振りでそれらを払い除ける。しかし、払った瞬間にくり出された閑白の攻撃を受けきることができず、思い切り後方へと吹っ飛んだ。
「兄上!」
凰黎が駆け寄ろうとしたが、凰神偉に「来るな!」と止められる。
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