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「そういえば、北の原にできた蛇沼にでかいヌマガラシが出たって話、御城で聞いてるか? セイ」  緩い退屈が湧いて来そうな空気の中にそんな話を投げたのは、沼の国の兵力を束ね、岩の城塞を任された将の位に就く男だった。  青みを帯びた白銀の髪に、黄昏時の空色を思わせる深い藍色の眼。額に一対短い角と、首に巻いた薄布の下に見える青緑色に輝く鱗を持つその男は、二つ三つ用事を持って来て、大して時間もかけずに片付けた有能な側近へ向けて眼を向けた。 「ヌマガラシ? いや俺は聞いてない。それがどうした」  濡れ羽色に艶めく長い髪と、狼族によく似た形の獣の耳を持った青年は、己の事をセイと呼んだ男を見返す。 「というか、人に被害が出ない限りそいつは城塞の管轄じゃないだろ、なんでそんな話がここに入って来てるんだ?」  ロウ。と呼ばれて、白銀の男は笑みで返す。 「まだ懐かしいと言うには時が経った話じゃないが、お前が前にやったことが尾ひれ付けて出回っててな。ヌマガラシの話題は決まってこっちに……というかお前目当てで回ってくるようになったんだよ」 「ええと、つまりそれを俺にやれってことか? 今までそんな話聞かされたこともなかったのに」  セイが訝しげに問えば、ロウはああと短く頷く。 「まずは現地の漁師で何とかすることが大前提で、それでどうにかできることの方が多かったから今までお前に振ったことは無かったんだ」  だが。と、ロウは笑いを含む声で語る。 「お前がこの国で一目置かれるようになったきっかけがあれだったから、尾ひれの付いた話の真否は別としても見てみたいと言うやつの気持ちを俺には否定できなくてな。その話をこっちに持ってくるなとも言い辛くて」  ロウが苦笑混ざりに言った言葉に、セイの表情は複雑なものに変わっていった。 「よくわからんが、何なんだ、その尾ひれってのは。俺は別に大したことなんかしてなかっただろ」
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