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それは数年前のことだった。
遠い場所から心身を削りながらやってきて、沼の国に根付くことを許されたセイが、まだ己に与えられたセイという名前に馴染みきっていなかった頃。
妖狽鳥という種族の群れが起こしかけていた厄災を鎮め、空席になっていた将の位を埋めたロウの後ろをついて回り、セイは人のいる場所に慣れ、定住する暮らしに慣れ、生きていくために必要な知識や経験をひたすらに積んでいくという生活を始めていた。
セイは表向きに言うと、妖狽鳥の群れに長く捕らわれていた存在であり、群れにいた者たちに虐げられてきた被害者的な存在だった。とされていた。
さらに正しく言うのであれば、虐げられていたことは事実でも群れを率いていたのはセイであり、ただ一人生き残った妖狽鳥そのものでもあるのだが。
まだ成獣したてであったということと戦意はすでに無いということを併せ、ロウか、あるいはこの国の主たる女王の監視下にあることを条件に新たな生き方を選ぶことになったのだ。
長い旅路と群れとの決別となった戦いで負った傷も癒え、城塞の街の中では顔見知りも増えていたが、それでも国全体となればセイの存在はまだ完全に受け入れて貰えていたわけでは無かった。
城塞の主となった竜将と一戦交えているとは言うが、あの痩せぎすにそこまで出来るのだろうか。今ではただ将の後ろをついて回るだけ。城塞の中に居るようだが何をしているのだろう。それほど優秀な力があるとも思えないのにやたらと大事にされているようなのは、女王の愛玩物になったか、それとも将のお気に入りにされたのか。
哀れむ声では無く、品の無い、陰との相性の良い話題の種にされていたことは確かだ。
それを気にして否定して、反発しても相手が信じようとしなければ何の意味も無い。ならば放っておくのが一番とロウに言われ、セイもそういうものかと気にしていなかったけれど。
しかし夏の盛りが過ぎて収穫期までにまだ少し間の空く頃になると、娯楽の減った世間ではその噂話は煮詰めた骨の汁に浮くアクのごとく、ふつふつと表に湧いて出てきていた。
そんな中。
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