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婚約破棄の理由にキレそうです!
私が住むエディタ国は、権力と地位を何よりも重視する国だ。
世界でも有数の経済発展国ではあるけど、経済発展に注力し過ぎて自然破壊がかなり進んでいる。
私がまだ小さい頃、エディタ国は戦争をしていた。それもあって、エディタ国には本当に自然が少ない。戦争からかなり復興しているとはいえ、一度失った自然をまた取り戻すなんてかなり難しい。
私は自然が大好きだから、建物と人工物で囲まれたこの国を息苦しく感じていた。
エディタ国を治めるサンチェス家とロス家は何を考えているのかしら。
でも簡単に引っ越すなんてできるわけがない。
だって私はサンチェス家の次女であり、「聖女」なのだから――。
「婚約破棄……?」
「ええ。レティシアとアールくんの婚約は破棄になったわ」
お母様が淡々と言った。
エディタ国にある城の会議室。
とある夜、私の家族とロス家、そして私の婚約者のアール・キャンベルが集まっていた。
「婚約破棄って……私とアールは来月結婚する予定だったじゃない!」
私が叫ぶように言うと、お母様は冷たい目をして私の言葉を遮った。
「お黙り、レティシア。アールくんにも正当な理由があるの」
「理由?」
私はどんな理由でも、アールを責めるつもりだった。でもその理由は、私が予想していたものとは大きく違っていた。
「アールくん、理由をどうぞ」
「はい。俺はアリス様を好きになってしまったからです」
「はあ!?」
思わず大声が出た。だって、アリスって……。
「アリス様は俺が出会ってきたどの女性よりも美しい。それは、初対面から思っていました。しかしそれだけではなく、アリス様は聖女のチカラが強く、それに魅了されてしまいました」
うっとりとした目をするアールに、ふっと殺意が湧いてきた。
お母様がどこか嬉しそうに私を見る。
「わかった?アールくんとの婚約は破棄よ」
「そんなの納得できるわけないじゃない!」
会議室に響く私の声。そこに違う声が混ざった。
「レティシアってば、うるさーい。アールは私のほうが好きだって言ってるでしょ。さっさと諦めて、婚約破棄を了承してよ」
その声は、この騒ぎの原因ともいえる彼女のもの。彼女はアリス・ロス。ロス家のケイレブと結婚しているから姓は変わっているけど、正真正銘、私の姉だ。つまり私は、既婚者である姉に婚約者を奪われたのだ。
「アリスお姉様、アールに何したの?ケイレブに愛されてるお姉様が、私の婚約者を奪うなんて何考えてるの?」
「奪うなんて、人聞きが悪いわね。私は聖女のチカラで、アールが私を見てくれるように仕向けただけよ」
聖女のチカラ。世界で0.000001%しかいない、不思議なチカラを持って生まれてきた私とアリスお姉様。聖女のチカラは、持ち主の願いをほとんど叶えてしまう。私達は聖女としてこの国の発展に力を尽くしていた。
「なんでそんなこと……」
「決まってるでしょ?レティシアの絶望的な顔が見たかったからよ。最初からこうするつもりだったのよ」
アリスお姉様が意地の悪い笑みを浮かべる。
「悔しいなら、レティシアも聖女のチカラを使って奪い返してみれば?ま、レティシア程度じゃ、そんなことできないでしょうけど」
バカにされ、私は椅子から勢いよく立ち上がった。
「いい加減にして!!」
私は思わず、アリスお姉様に手を振り上げた。
そのままアリスお姉様の頬に当たる。そう思っていたけど、直前で私の手は乱暴に掴まれた。
「レティシア。姉に手を上げるとはどういうつもりだ」
ずっと黙っていたケイレブだった。強面なのもあって、怖い顔で私を睨んでいる。
「そうよ。アリスはレティシアと違って優秀だから将来に期待しているのよ。それなのに、傷が残ったらどうするの」
「そうだぞ。アリスの美貌に夢中になるのは仕方がないことだろう。嫉妬して暴力なんてやめなさい」
お母様とお父様まで、アリスお姉様の味方をするの?
そもそもなんでアリスお姉様が庇われてるの?
私の婚約破棄は、そんなに仕方ないことなの?
「次はない」
ケイレブは私の手を離すと、アリスお姉様に向き直った。
「アリス、大丈夫だったか?」
「ええ。でも怖かったわ。こんな野蛮な妹がいる私って可哀想ね」
「ああ。だが心配しなくていい。俺がアリスを守る」
「ケイレブ……。そうよね、ケイレブがいれば大丈夫よね」
「はは、ケイレブくんは頼もしいなあ」
「そうね。さすがアリスの夫だわ」
私の中で何かがぷつりと切れた。
もう我慢の限界だ。
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