優劣しか見てないの?

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「お願い……ノアを呪いから解放して……」 私の手から眩い光が溢れるように現れる。慎重にノアの心臓辺りに触れ、聖女のチカラをそこに集中させる。 ノアの心に語りかけるように、心の中で声をかける。 ノアは苦しむ必要ない。私が絶対救うから。イーサン、すごく心配してるんだよ。私のチカラで、ノアを助けたいの……。 爽やかな風が一瞬で部屋を通り過ぎた。私とノアから光が消えていく。 完全に光がなくなったとき、私は恐る恐るノアの左半身を見た。 ――ノアの左半身に、黒い文字は一つも残っていなかった。 成功……?できたの?救えたんだ……。 「イーサン!成功したよ!」 「はい!レティシア様なら、できると信じていました。本当にありがとうございます!」 「私、今すごくほっとしてる。助けられて良かった」 「感謝してもし切れません。後で俺から何かお礼をさせていただきます」 「ありがとう」 イーサンと微笑み合ったときだ。 「どういうこと?」 三人が悔しそうに私を睨んでいた。 私の心がすっと落ち着いていく。 「レティシアがアリスより優れているなんてありえないわ」 「アリスが誰よりも優れているんだ。それなのに……」 「私がレティシアより劣ってるなんて、そんなの絶対信じないから!!」 ああ、この人達は相変わらずだ。「誰が助けたか」とか「誰を助けたか」よりも、「優劣」だけを見る人達だ。 普通の家族なら、誰が助けても嬉しく思ってくれただろう。でも、私の家族はそんなことしてくれなかった。アリスが誰よりも優れた聖女でいること。それしか頭にないんだ。 高揚していた心がすっと冷めていくのがわかる。 「……お前らは人間の心がないのか?」 ノアがゆっくりと上半身を起こし、俯きながら呟いた。透き通った綺麗な声だった。 「ノア様、あまり無理しては……」 「大丈夫だ。俺はそいつらに言いたいことがある」 ノアが冷たく見つめるのは、両親とアリスだ。 「イーサンから少し聞いた。そこのアリスとかいう聖女ばかり溺愛して、もう一人は蔑ろにしていたらしいな?お前らの様子からもよくわかった」 「え……」 「俺はそういう奴が大嫌いだ。さっさと消えろ。優しい聖女は、今日はこちらで過ごすといい」 優しい聖女って……私? 私を見つめるノアの眼差しは、家族を見るものとは真逆の……愛を感じた。その目があまりにも美しくて、とても魅力的だった。 「イーサン、こいつらを外につまみ出せ」 「はい。……出ていけ。もうお前らに用はない。というか、最初から用なんてない。もう二度と俺達の前に現れるな」 数人の兵士が三人の腕を掴み、部屋の外へ引きずり出す。 「おい、離せ!」 「離して!」 「触らないでよ!……レティシア、私に恥をかかせたこと、絶対後悔させてやるんだから!覚悟しなさいよっ!」 三人はそれぞれ叫びながら、部屋を後にした。 「兵士さん、すごーい。三人とも暴れてるのに、全然動じてない」 「イーサンのおかげだな」 「え?イーサンが関係あるの?」 「ああ」 ノアは短く答え、小さくため息をついた。 「全く、品のない奴らだ」 「はい。それに比べレティシア様は品があり優しい方です」 品がある……?森で暮らそうとしていた私が? 「レティシアというのか」 初めて真正面から顔を合わせたな。本当に綺麗な顔立ちだ。羨ましくなるくらい。 「はい……」 「ありがとう。いくら礼を言っても足りないな。イーサンのことも助けてくれたらしいな」 「いえ、本当にたまたまで」 「謙遜しなくていい。今日はここに泊まっていきなさい。夜に大切な話がある。それまで自由に過ごして構わない」 「ありがとうございます」 「敬語もいらない」 「……ありがとう」
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