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モニカと訓練を見ていると、一人だけ明らかに動きが違う人がいた。
他の兵士より走るの速いし、剣を振る速さが尋常じゃない。
しかも、彼だけが少し若く見えた。体格も他と比べてちょっと小さいし。
つい釘付けになっていると、兵士達の中から聞き覚えのある声がした。
「ウォーミングアップは丁寧に!早くできれば良いということではありません!」
間から見えたのは、真剣な顔をしたイーサンだった。
「イーサン!?」
ジャージに着替えたイーサンが、兵士達に指示を出している。
「あれ?知らなかったの?イーサンは執事と兵士達の監督官を兼任してるの」
「知らなかった……」
あっ、ノアが言ってた「兵士が強いのはイーサンのおかげ」って、こういうことだったんだ!イーサンが監督してるってことか。
そのとき、他の兵士達から少し離れて剣の素振りをする人が見えた。さっきの若そうな彼だ。
皆はストレッチしてるのに、彼だけは一心不乱に剣を振り続けている。
「……レティシア?どうしたの?」
「あ、ううん。ただあの奥にいる人が気になっただけ。一人だけ剣の素振りしてるし、他の兵士さん達よりちょっと若そうだと思って」
「ああ、あの人はいつもそうなのよね」
「そうなんだ?」
「うん。名前はジル・マーティン。十五歳だったかな」
「十五歳!?若い……。私より二つ年下だ」
「ジルってものすごくストイックでね。兵士の中で一番年下なんだけど一番強いの」
「へえ〜」
「強いんだけど、協調性がないってよく言われてるわ」
確かに、一人だけ違うことをするのはちょっと協調性に欠けているのかもしれない。
でもそこまで必死に練習に励むってすごいことだよ。
それにしても、なんであんなに頑張ってるんだろう。何か目標があるのかな?
唐突にジルが私の方を向いた。
遠いけど目が合って、なんだか気まずい。なんでいきなりこっち向いたの!?夢中で練習してたじゃない!
そう思いながらしばらく観察していると、ある疑問が浮かび上がった。
「ねえモニカ」
「んー?」
「なんでイーサンはジルを注意しないの?」
「あー、それはね。ジルには言っても無駄だからよ」
「え?」
「最初はイーサンも注意してたわ。『一人だけ勝手な行動は慎め!』って。でも全然聞く耳持たなくて。もう諦めてるのよ。ジルはイーサンに負けないくらい強くなってるし、誰にも迷惑かけてないから注意する必要ないって判断したみたい。あ、でも未だに休憩は一緒に取らせようとするんだよね。イーサンがめんどくさいのか、たまに一緒に休憩するの見たことある」
「そっか。さすがモニカ」
「ふふ。いつも見学に来てたからね〜。イーサンの話もよく聞いてた。私が言ったジルの話も、イーサンが前に言ってたの」
さすがノアの幼馴染。ノアと深い関係があるってことは、イーサンとも長い付き合いだよね。
私は無意識にジルを観察していた。
あるとき、ふと違和感を覚えた。
ジルの突然動きが鈍くなったのだ。それまで鋭い突きを見せていたが、あまり速い剣さばきを見せなくなった。いや、あれでも充分速いけど。なんとなく無理してるような気がしたんだ。
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