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しばらく訓練して、休憩時間となった。
兵士達がぞろぞろ休憩し始める中、イーサンがジルに声を掛けると、渋々離れたところで休憩を取った。
私は立ち上がり、ジルのところへ向かおうとした。
「レティシア?」
モニカが私の手を掴み、驚いたように聞いてくる。
「ジルのところに行かなきゃ」
「えっ?」
「ジルは、何か無理してる」
「……わかった。でも後で私も行く」
「うん」
なんでジルと話すのにモニカも来るのかと一瞬疑問に思ったが、そんなこと考えてる場合じゃない。直感的にそう思った。
私は訓練所を横切り、ジルのもとへ走った。
「……ジル!」
かなり広い訓練所だから、横切るには結構体力がいる。
息を切らしながらジルの名前を呼んだ。
「……誰」
澄んだ水のような透明感がある声だった。よく見ると、整った中性的な顔立ちだ。
「私、レティシア。エディタ国の聖女なの」
「エディタ国っ!?」
ジルは弾かれたように立ち上がり、私を睨んだ。
「ジル……?」
「気安く呼ぶな……。お前が……お前の国が……僕の……」
ジルは私の鼻先に剣を突きつけた。私は思わず尻餅をついてしまう。
心底憎そうな声で叫んだ。
「エディタ国の人間は、誰一人許さないっ……!エディタ国は、僕の……僕のっ……!」
憎しみが溢れた声から、今にも泣き出しそうな声に変わる。
エディタ国は……ジルに何をしたんだろう。
エディタ国を心の底から憎むほど、何をされたんだろう。
呑気に考えていると、ふっとジルがバランスを崩した。
「えっ……!?」
ジルがその場に倒れ込む。
「ジル!?」
「うっ……はぁっ……」
苦しそうに息をしながら、胸を押さえている。
かなり苦しそう。このままだと危ないかもしれない。
私はジルの身体にゆっくり近づいた。
「やめろっ……来るな……!うっ……くっ……」
抵抗しようとしてるのかな。こんなに苦しんでるのに、それでも突っぱねるなんて。
でも、このまま下がるという選択肢はない。私はアリスみたいにはならない。
私は、もっと人の役に立てる聖女になるんだ。
ジルの身体にそっと触れる。
動悸……?
「ジル、大丈夫。私が助けてみせる」
「え……」
胸を押さえている手に触れ、その奥の心臓近くに意識を集中させる。
「ジルを苦しみから解放して……」
私の手とジルの身体が共鳴するように光に包まれ、爽やかな風が一瞬で通り過ぎる。ジルの身体から力が抜けていく感覚があった。
光が消えたとき、ジルはわずかに息を切らしているけど安定した鼓動のようだった。
良かった。助けられた。私はジルのことが知りたいんだ。
そういえば聖女のチカラを使うのは今日は二回目だよ。ちょっと疲れてきたかも。
「なんで……」
「ん?」
ゆっくりと身体を起こし、戸惑いながら口を開いた。
「なんで僕を助けたの」
「理由なんてないよ。苦しんでたから助けただけ」
「僕は、剣を突きつけたんだよ?」
「そんなの関係ないでしょ。私が助けたいって思ったから。ただそれだけ」
「…………」
驚いたように私を見つめる。
様々な感情が入れ混ざった瞳は、私をどうしても惹き付けた。
しばらく沈黙が流れていた。
「レティシア!」
モニカがようやくやって来た。
「レティシア様」
イーサン?なんでイーサンも……?
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