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「もういい。アールとの婚約破棄に同意します」
ちらっとアールを見るけど、アールは私に興味を示さず、アリスお姉様を見つめている。
「やっと了承してくれた~。ほんと、手間がかかる妹だわ」
アリスお姉様がわざと皆に聞こえるように言った。
身体の奥底からふつふつと怒りが湧いてきて、私はアリスお姉様を睨みつけた。
「やだ、こわーい。本当に野蛮な妹ね」
「うるさい!そもそも、なんでアールを奪う必要があったの?そんなことしなくても、ケイレブに充分愛されてるじゃない」
「そんなの関係ないわ。アールはもともと私に興味があったの。出来損ないのレティシアとは違って、私は優秀で美人だもん。私の聖女のチカラでアールを奪って、レティシアが泣く様子を見たかったんだけど……。さすがに泣くことはしないみたいね」
「当たり前よ。アールみたいなクズ婚約者なんていらない。私が私を幸せにする。自分の力だけで」
すると、アリスお姉様はくすっと笑った。
「無理に決まってるでしょ。出来損ない聖女のくせに、態度ばっかり大きくて。見苦しいったらありゃしない」
当然のように私以外の皆は、アリスお姉様に味方する。
「レティシアが出来損ないなんて、皆知っているだろう」
「レティシア。大口ばかり叩いて、後で泣き言言っても無駄ですからね」
「俺はレティシアを捨てて、アリス様のお側にいます」
「アリスは自慢の妻だ。それに比べて妹は……」
我慢なんてしてられない。
こんなところにいたら、私まで腐るわ。
私はそう判断して、会議室を飛び出した。
そのまま城の近くの森へ走る。
「はあ……なんであんな姉を持ってしまったのかしら。私が一番可哀想じゃない」
この森は、エディタ国が所持する中で唯一人の手が加えられていない自然だ。
私は小さい頃からここで遊んでいるので、森の地形は全て把握している。
川の近くの岩に座り込み、夜空を見上げた。
今日は満月。月明かりが川と私を照らしている。
これからどうしよう。
いっそ、森で暮らしてみようかな。きっと楽しいわ。そうしましょう。
そう決めてしばらく風の音を聞いていたけど、ふと違和感を感じた。
誰かの声が聞こえる。私と同じくらいの年齢か、もしくは少し年上くらいの男性の声。
「……た……て……」
何か言ってる……けど、はっきりと聞き取れない。
聖女のチカラを使えば、これくらいはっきりと聞こえるようにできる。でも、私はそうしない。
だって私はこれから「聖女」じゃなくて「レティシア・サンチェス」として生きるんだから。
聖女のチカラは、最低限でいいのよ。
私は、声のする方へ足を進めた。
数分後、私は倒れている一人の男性を見つけた。
「あ、あの……!」
そっと声をかけると、男性が顔を上げた。
「え……」
戸惑った声の持ち主は、とても整った顔立ちの男性。
暗い夜の森には似合わない、明らかに上等そうな燕尾服を着ている。
まさか、貴族の関係者?
ここで貴族関係含む他の人に会うなんて、初めてだった。
いつも私一人で、誰かに会ったことも見かけたこともない。
しかも、こんなに位の高そうな人が、なんでこんな森に?
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