375人が本棚に入れています
本棚に追加
/136ページ
翌朝、私が身支度を整えているときだった。
勢いよく自室のドアが開け放たれ、アリスがずかずかと入ってきた。
「勝手に入ってこないでくれる?」
冷たく睨むと、アリスは目を三角にして叫ぶように言った。
「さっきネイサン国からレティシア宛てに手紙が届いたの!ネイサン国に行ったことないくせに、なんで手紙が届くのよ!とにかく早く会議室に来て!」
私は微笑を浮かべて、落ち着いた声で答えた。
「手紙の理由にアリスは関係ないわ。それに、ネイサン国に行った経験なんてあってもなくても変わらないの」
「何言ってんの……?っていうか、なんで私のこと呼び捨てにしてるの!?私は姉なのよ?」
今までなら何も反論せずに従っていただろう。そもそも姉を呼び捨てにしようとも考えなかったはずだ。
でも私は少しでも現状を変えたい。だから、次に何か言われたら、少しでも反論することに決めていたのだ。
「それが何?姉を呼び捨てにしてはいけないなんて法律、エディタ国にはないよ?」
「そういう問題じゃないわよ!姉に敬意くらい払えって言ってんの!」
「婚約者を奪った姉のどこに敬意を払うの?」
「……っ。私はレティシアより優れた聖女なの!そこに敬意を払いなさいよ!」
「私、今日家を出てネイサン国に行くの。だからもう関係ないよ。そもそも、私がアリスに敬意を払ったことなんてないから」
「生意気なことばっかり言うな!」
アリスが私に向かって拳を振り上げる。
私は無表情でアリスの拳をよけた。
「ここでアリスと喧嘩する気はない。さっさと会議室に行きましょう」
私は会議室に向かった。
アリスはそこに立ったまま。
「……レティシア、生意気なことばっかり言いやがって。……あ、これって……」
「レティシア、ネイサン国から手紙が届いたわ。これはどういうこと?」
会議室に入ると、開口一番にお母様が問い詰めてきた。
側のテーブルには「レティシア・サンチェス様」と書かれた手紙が置いてある。
「言う必要はないわ。私はネイサン国に行く。ただそれだけを伝えにきたの」
「何言ってるの……?」
「レティシア。なぜネイサン国から手紙が届くんだ。お前はネイサン国に行ったことがないだろう」
「同じことばっかり聞かないで。言う必要がないから言わない」
そこにアリスが会議室へ入ってきた。
「お母様、お父様。レティシアってばおかしいわ!ネイサン国に行くって言うし、私のこと呼び捨てにするし、生意気なことばっかり言うし」
アリスの目には、薄らと涙が浮かんでいる。きっと今まで言いなりだった私が反論したから悔しいんだ。
「レティシア、アリスの言うことは本当なの?」
「ええ。私はもうお姉様なんて呼ばない。アリスはもう他人として扱うから」
「いい加減にしなさい!早くネイサン国に行く理由を話しなさい!」
父親のヒステリックな声とは真逆の、落ち着いた声で言い返す。
「いい加減にするのはそっちじゃないの?」
「お父様!こうなったら、手紙を読んでやりましょうよ!」
アリスが手紙を掴んで父親へ提案する。
父親が頷く。
アリスは手紙を乱暴に開け、乱暴に便箋を取り出した。
アリスが手紙を読み上げる。
レティシア・サンチェス様
レティシア様の家族が読んでいることを考慮して、簡潔にまとめます。
なるべく急いでネイサン国へいらしてください。
かなり弱ってしまい、命が危ういとのことです。
一刻を争うといっても過言ではないでしょう。
俺はレティシア様の聖女のチカラが、きっと救ってくださることを信じています。
レティシア様の到着をお待ちしております。
イーサン・スチュワート
ノアの命が危ない!?
早くネイサン国に向かわなくちゃ……。
でもこの家族はどうしよう?
「レティシア、早く事情を説明しなさい!」
「イーサンはネイサン国の執事だろう。なぜレティシアのことを知っている?」
「一刻を争うってどういうこと!?」
ああもう、うるさい!!
あんた達に構ってる時間なんてないのに!
早くノアを助けに行かなくちゃ。
私はアリスから手紙を奪い、自室に戻る。
私はここを出て、ノアを助けて、ネイサン国で暮らすの!
誰にも邪魔させないんだから!
私は急いで必要な荷物をバッグに詰める。
「あれ……?ペンダントがない!」
昔から大切にしていたペンダントがなくなっていた。
朝はこの引き出しに入っていたのに……。
「あれ〜?レティシア、どうしたの〜?」
アリスが部屋の入り口に立っていた。
「アリス……!」
「もしかして、探してるのってこれ?」
そう言って見せたアリスの手には、私のペンダントが握られていた。
最初のコメントを投稿しよう!