364人が本棚に入れています
本棚に追加
ネイサン国に着き、私達は城の前までやってきた。
入ろうとすると、門の前に立っていた二人の兵士に止められた。
「おい止まれ。見たところ貴族のようだが……城に入る許可証はないのか?」
許可証……?
私は手に持っていた私宛ての手紙を渡した。
「これは……『レティシア・サンチェス様』?サンチェスってエディタ国を治める苗字だよな?」
「ああ。前にも来たよな。でも彼女は見たことがない」
「俺もだ。彼女も美しいが、確かものすごく可愛い美少女がいたはずだ」
それってもしかして……。
「こんにちはっ。お久しぶりでーすっ」
やっぱりアリスのことか。
私がアリスを嫌いな理由はもう一つある。
それは、他の場所では猫を被るところだ。
いつもは高圧的で上から目線な発言をしているけど、遠征とかで違う場所にやってきたときは、いつもより声を高くしたりお淑やかになったりする。
そんな裏表の激しいアリスが嫌いだ。
「前にも来てくれた聖女様ですよね!」
「アリス様……でしたっけ?」
「はい!アリスでーす。覚えててくれて嬉しいなぁ〜」
アリスの本性を見抜けない人達は、
「ふふふ……」
「可愛い……」
こういう反応になる。
アリスの裏表も嫌いだけど、こういう反応する人達も嫌いだ。
そのとき、誰かが足早にやってきた。
「何を騒いでいるんですか?」
「あっ、イーサン!」
完璧な身だしなみの彼は、あの日出会った執事のイーサンだった。
「レティシア様?ようこそネイサン国へ。おや、後ろの方々は……」
「ごめんイーサン……。ちょっと事情があって」
「……わかってます。レティシア様、早速こちらへ。一刻を争う事態です」
「そうよね。早く行かないと」
私とイーサンが城の中へ足を進めると、突然私の腕が掴まれた。
「きゃっ!?」
「私も行くに決まってるでしょ」
アリスが私の腕を掴んでいた。
「アリス……!お願い、離して!時間がないの!」
「だから、レティシアにできて私にできないことはないの。私が解決してあげる。感謝してよ」
「イーサンっ!」
助けを求めるようにイーサンの名前を呼ぶ。
イーサンはアリスをチラ見して、
「アリスもこちらへ。ただし、邪魔は許しません」
と早口で伝えた。
「なんで私は呼び捨てなのよ!それに、邪魔なのはレティシアでしょ!?」
「うるさい、黙れ。俺は元々レティシア様に頼んだんだ。俺の邪魔をするなら帰れ」
「イーサン……?」
今まで見たどのイーサンよりも、冷徹で厳しく、それでいて必死な声だった。
ノアのことを心から大切に思っているから……。
私はアリスの腕を引っ張り、城の中へ連れ込んだ。当然のように両親も後に続く。邪魔だっつーの!
やがて着いたのは、一際大きな個室だった。
「ノア様、失礼します」
「……イーサン……?」
掠れた声でイーサンを呼ぶ、ノアらしき美しい男性。
私はノアに思わず見とれてしまった。だって今まで見たどの男性よりも綺麗だから。
ノアはベッドに横たわり、苦しげな声を漏らしている。
彼の左半身は、「呪」という黒い文字で埋め尽くされていた。
「なに、これ……」
アリスが引きつった声を出す。
私はノアに目を向けたまま説明した。
「私が依頼されたのは、このノアの呪いを解くこと。イーサンはノアのことをずっと心配してたの」
「は……?なんで、あんたは……」
「え?」
「気持ち悪いっ!!何なのこれ!ノアはもっと綺麗だったはずでしょ?こんな醜い姿なんて信じられない!」
アリスの悲鳴のような声が部屋に響いた。
「うっ……!」
呻き声と共に、黒い文字がノアの身体を侵食した。
「ノア様!」
「私に……私にできないことなんてないんだから!」
アリスはそう叫び、ノアに手をかざした。
最初のコメントを投稿しよう!