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ボタンを押して流れる文字を読んでからボタンを押す、……面倒になってきたな。
「文字流れるだけなんですね」
「確かにねぇ、ボイスなしだったか……じゃあじゃあ、ゲーム実況者みたいに音読してみるのはどッスかぁ?」
「え? 俺が……? どうして……」
「心底嫌そうな顔入りました。ほら、ホピタンとかも読むでしょ」
「それはホピタンがイケボだから許されるのでは?」
「ぐっ!」
「急にダメージ受けてる奴も居ます」
一色くんの横で万丈くんが苦しそうにしてる、マジで体調が悪そうで大変だな。自室なんだしベッドで横になった方が良いのに。
気の毒に思ってる俺に、一色くんは眼鏡を指で押し上げて「イケボって言うなら」と笑いかけてくる。
「平良くんの声もカッコいいッスよぉ、聞きやすいって言うか、滑舌良いよねぇ」
「わかる! タイラくん滑舌良いよねー!」
「前のめりオタクがキショくてごめんねぇ、でもぼくはホピタンより平良くんの声の方が好きッスねぇ」
ホピタンの方が良いに決まってはいるけどお世辞だとは言えど、そんなこと初めて言われたな。
メェ介が膝の上で「シキの声聞いてると落ち着くメェ~!」と追撃してくる、何だか照れるぜ。
「ふふ、そんなこと言われたの初めて」
「あらー平良くんの初体験ラッシュの相手ぼく~?」
「確かに、誰かと放課後遊んだり人の部屋に来たのとかもそうです。一色くんに人生経験学ばされてるな」
「光栄ブイサイン」
「……この漲る力は、もしかして殺意……?」
「壁が何か言ってるのはさておき、そんな訳なのでゲーム実況ごっこしてみないッスかぁ。ぼくリスナーになるッスよぉ」
「同接1ってやつだ」
「はいはーい、オレも居まーす」
先程から忙しそうな万丈くんが手を上げると、「ボクもボクも」とメェ介も言う、同接3か。
まあ、読むのが面倒過ぎるけど何事も経験だとモモ先生も言ってただろうし。言ってたか? 忘れた。
人付き合いは面倒が付きものなのはわかってたことだ、ここまで来たら面倒の延長かと諦めるのが妥当だ。
が、全部読むのは嫌なので「読めそうなのだけ読みます」と伝えた。
友人のカヨちゃんという子が居なくなったことに気づいた主人公が校舎を探索する、放課後だからか薄暗いマップを歩きながら何故か人もあまり居ないらしい。
とりあえずズンズン進みながら教室から階段を下りるけど、暗いのが見辛いな。
今時の小学生ってこんな暗くなる前に帰れないのかな、主人公、どう見ても低学年くらいだし。親が心配するだろ、大丈夫か学校側。
「タ、タイラくんー……す、進むの早いねー……曲がるのも全然急に行く……待っ、はあ、何も居ない……?」
「何か居ましたか? 暗くて見にくいからわからな」
そこでまた曲がったところで、バンと目の前によくわからない能面が浮いてて「ヒッ!?」「うお……」と言う声を横から聞きながらケタケタと笑われながら手が振ってきて暗転してGAME OVERの文字が。
そしてタイトル画面に戻ってるのを見ながら首を傾げる。
「何か負けた」
「負け……う、うんそッスねぇ、今のは多分お化け的なやつに襲われちゃったみたいな」
「勝てないんですか?」
「バトルじゃないんスよねぇ、お化けから逃げて襲われないようにカヨちゃんを探して校舎から出るゲームかもッス」
「お化けはほらー、パンチとか武器とか効かないからねー」
「掃除機も?」
「バスターするやつじゃないかもねー」
2人に霊的なものに見つかったら駄目系なゲームと教えて貰い、普段ホピタンで見ないジャンルだなと思いメェ介は大丈夫かなと撫でれば膝の上で眠ってる。
俺も寝たい、羨ましい。
それにしても、2人が怖そうに画面を見てるので「大丈夫ですか」と聞いた。
「怖い?」
「え!? い、いや全然こ、こここ怖くないよー! ビックリしてるくらいだから!」
「虚勢乙……うーん、ぼくはちょっと無理気味かもッスねぇ……急に出てくるのもだけど雰囲気がゾッとするって言うか」
「そうなんですね。怖かったら俺の腕掴んでて良いですよ、何かに捕まってたら安心するだろうし」
「えっ」
「え、待って待って、ズルすぎ何どうして裏技使った、え、オレも怖……いやでもカッコつけたい……どうすれば」
「マジでうるさくてごめんねぇ。でも掴んでて良いってマジ寄りのマジ?」
一色くんが驚いた様子で俺の腕をツンツンつついてくるので、頷く。
「これなら一色くんが怖い気分も薄れそう?」
「……ほ」
「ほ?」
「惚れそう……っ! え、待って怖い怖い、男前過ぎる何、吊り橋効果これ? え、平良くんに惚れそう何!?」
「おい紅葉……は、ズルすぎ、今すぐそこ退いて今ならまだその沼に沈まずに済むから」
「無理だ誉、刺激で命を落とす」
「ふむ、ゲームしても良いですか?」
大体わかってきた、俺がモモ先生とするようなノリだけの漫才コミュニケーションを2人はしてるみたいだ、漫才のテンポに入るわけにはいかない。
盛り上がる2人を横に、ゲームを進めると今度は髪の長い着物を着た女性の亡霊っぽいものに追われて、行き止まりで捕まり顔を近づけてきてまたGAME OVER。
「うわっ」
「無理無理無理、何で襲われるシーン迫力あるんだ」
次は校舎を走る野犬の群れに襲われ。
「霊だけにしろよ!」
「た、平良くん……マジで掴まっていい……」
次は先生に話し掛けたら体育館に連れられてステージから突き落とされ、床にある無数の何かに突き刺さり。
「おいおいレビューでそこまで怖くないって書いた奴謝れマジで……」
「先生人間やめた?」
その後幾度もGAME OVERを繰り返してると、俺の腕にしがみついて震える一色くんとクッションを抱き締めてブツブツ何か呟いてる万丈くんが。
コントローラーをテーブルに置いて息をつく。
「通ってた学校がこうだと知らずに過ごしてたなんて、ヤバいなこの主人公」
「……平良くん、マジで怖くないんスか」
「どうかな、2人が先に怖がってるから俺がリアクション取らなくても良くてエコだなって」
「リアクションもエコモードしてるんだ」
怖い怖くない以前に、2人が大変そうという感情が浮かぶ。本当に苦手なんだな。
「まあ、無理に苦手なこと挑戦しない方が良いですよ。俺だったら嫌なことは嫌だし」
「平良くん……はは、恥ずかしいなぁ、耐性つけるとか言って怖がって全然見れてないッス」
「やめときましょう、飽きたし」
「飽きたのが上なんだろうなぁ。でもプレイしてくれて参考になったッスよぉ、ありがとう平良くん」
「いえいえ」
ザッツライトと思い一色くんにゲームを片付けて貰うと、クッションを抱き締める万丈くんが顔をそろっと上げて「……タイラくん」と弱々しめのイケボで声を掛けてくる。
「……カッコ悪くてダサかったかな、オレ」
「え、自覚あって草」
「紅葉に聞いてないー、タイラくんに聞いてる! んだけどー……この質問自体ダサ過ぎかも」
「万丈くんは体調も悪いのに怖い思いまでして大変そうでした」
「優しい……」
感想を告げれば相当参ってるらしい、ゆっくり休ませなきゃと立ち上がった。
「長々と失礼しました、俺帰ります」
「え、帰っちゃうの?」
「はい、眠いし」
「あ、じゃあぼく見送るッスよぉ」
片付け終わった一色くんも立ち上がる、それを見て「オレも……」と立とうとする万丈くんに「ゆっくり休んでください」と言えば「はい……」とさっきまで白かった頬がじわと赤くなってく。
熱まで……大変だ、メェ介と鞄を抱えて「お邪魔しました」と部屋の外に出たのだった。
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