0匹目:魅惑のモフモフ

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よく晴れた昼休み、いつものように裏庭の木陰でレジャーシートを広げその上に寝転んで昼寝体制を完璧にし、推し配信者のアーカイブを聞きながら目を閉じた。 『はあ、今日も今日とてゾンビを撃ち殺すことでリアルのストレスを解消出来るってことだよわかる? ゾンビ1昇天につきオレのストレス1昇天ってことなのそうそうストレス社会やーよね、え、お金じゃんグッバイオレのストレスとゾンビの群れェ!』 「ふふ……」 いつ聞いても早口でも聞きやすい低音イケボで現実への不満を溢しながらゲームを楽しそうに配信してくれる『ホピタン』と言う配信者にハマったのは去年の4月、高校に進学した時だった。 その頃は登録者5人しか居なかったホピタンも今や一万人越え、いつも夜に配信してるのをリアタイして再び翌日の昼に昼寝BGMとして声を聞いてる。 推しに認知されたくないタイプのオタクだからコメントとかお布施もしたことないただのROM専ファンだ、SNSで反応して空で感想送ってもホピタンはエゴサしないのかバレたことがない。 良いんだ、他人とは関わらずこれくらいの距離感がいい。 「ふわ……」 中高一貫の全寮制男子校に中学ん時から通い始めて今年で5年目、ズルズルっと先日高校2年になったが俺には友だちが居ない。 それを苦に感じたことはない、しかしボッチを憐れんだのかボッチが物珍しいのか、たまに俺に話し掛けようとする先輩や後輩、あと毎日気に掛けてくれる担任が居るが1人って最高なのだ。 俺は昼寝が好きだ、中等部から友だちを作る暇を惜しみ毎日外や教室や保健室でダラダラ寝て過ごし今に至った。 そんなに寝てと怒る親元から離れられたので存分に昼寝を堪能出来る、昼寝のし過ぎで夜眠れなくてホピタンの配信で夜更かしをし、そして寝不足で日中眠くて昼寝をする、そんな毎日が最高だった。 他人の顔色見て生きるのって面倒臭い、話題考えたりとか呼吸合わせたりとか、そんなの考えただけでダルすぎる。 あと2年しかないこの最高ライフを堪能しなければ、とそよ風が頬を撫でるので思考を放棄して睡眠へと向かった。 「ひつじが1匹……ひつじが2匹……ひつじが」 「メェ~!」 「?」 モフ、とした感触が顔に当たる。 何だ、と目を開けるが目の前が白い毛のようなもので覆われ何も見えないので手探りで顔を覆うナニかを触る。 モコモコした触り心地のいいそれに不思議に思うよりも、気持ち良さが勝った。 「……ねむ」 フカフカの感触に包まれ眠気がマッハで訪れ、俺はそのままナニかを抱き締めて眠りについたのだった。
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