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____うん。
肯定を表すその2文字が映し出され、氷の粒が一瞬心臓を覆った。
LINEで遊べる日を決めていて、その日は予定があるなんて言うから、彼氏できた?とからかい半分で聞いてしまった。
瞬間、後悔した。
秘密にしていることが無いと言うくらい溶け合っていた彼女の存在が、一気にベールで覆われる。
異世界に、行ってしまった。
誤魔化すために驚いているスタンプを大量に送る。
『私に彼氏ができたらショックで1週間寝込むって言ってたじゃん?お母さんに言ったらめちゃくちゃ大笑いしてたよ』
この前会った彼女の笑顔が蘇る。
私は8割ほど冗談抜きでその言葉を言っていた。
はなちゃんに彼氏ができたらショックで1週間寝込む。
「…そっか」
彼氏、できちゃったか。
じゃあもう私はいらないね。なんてね。
いや、冗談ではすまされないかも。
だって、彼氏がいるのに私と遊ぶ理由ってなんだろう……。
ずぶずぶと思考の海に溺れる。
LINEの返信を見るのも嫌でスマホを裏返した。
ベッドにダイブ。
天井が遥か上に見えてぼやける。
はなちゃんへの感情が天井と壁の境目の、あの点の部分に溜まっていく。
一気に知らない人に思える。
あんなに近いと、思っていたのに。
はなちゃんについて知らないことが増えることが、知らない男がそれをこれから私よりも掌握していくことが、すごくすごく嫌。
私が彼氏をつくればいいのかな。
いや、そもそも私に彼氏はできない。
自分のことで精一杯のやつに彼氏なんかできないし、そんなやつのことを好きになってくれる人は、現れない。信じてない。
はなちゃんは、遠く遠く、私には到底行くことのできない遥か彼方へ行ってしまった、らしい。
__当日。
はなちゃんに久しぶりに会える日。
彼氏ができてから、初めて会う日。
…はじめまして、の日。
「お待たせ」
彼女の姿を見て、やっぱり後悔した。
会わなきゃよかった。
隙のない人が世の中にはいる。
そういう人はまるで私生活とか疲れとか想像ができなくて、まあもしかしたらそういう人を大人と言うのかもしれないけれど、私は少し怖い。
そういう人に彼女はなっていた。
メイク、髪、服、仕草、全て隙がない。
纏う空気が洗練された。
女になるってこういうこと。
私たちは二度と混じり合うことはないでしょう。
それでも。
「行こっか、何食べたい?」
私は、私の知っている彼女の笑顔で安心して、幸せになってしまうんだから。
あぁ、なんて不幸せで不健康な、救いのない薬。
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