桜貝のピアス

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そしてパーティーの当日。 朝から暑くて、夏空が広がっていた。 結人の服装を見て、私は首を傾げた。 「…ねえ。いくらなんでもカジュアル過ぎじゃない?」 「皆でわいわいするから、動きやすい服の方がいいんだって」 そうは言ってもジーンズだよ? 「あ、なっちゃんは着替えてもらうから。それは用意してあるからね」 「そう…」 「主役はなっちゃんだから。俺はいいの」 結人はそう言って笑った。 まあ 「本番」ではないしね… 「それより持ってきた? 指輪」 「うん」 私は右手を差し出した。 薬指にはプラチナのリングが()まっている。 母のものだ。 「お父さんが大切にしまってたみたい」 私は自分の指先を見つめながら、写真でしか見たことのない母親に想いを馳せた。腕に抱かれた温もりさえ 覚えていない。だけど、いっそのこと何もない方が、寂しさも少なくて済む気がする。 2次元の母が動き出し、笑って喋る。もし私にその記憶があったら、悲しみももっと深いものだっただろう。 「お母さんの分も、俺らの未来に繋いでいこう」 「うん…」 「じゃあ、はい。コレ着替え」 衝立(ついたて)を置いただけの簡易的なスペースで、私は渡されたその服に袖を通した。胸元にレースがあしらってある、真っ白なリネンのサマーワンピースだった。 ちょっと デザインが古めかしいよね 不思議に思ったのは、新品ではなかったこと。 だけど、大切に保管されていたのか虫にも食われていないし、肌当たりも優しかった。後ろでひとつに纏めていた髪をほどいて、鏡の中の自分と向かい合った。 これ… お母さんのだ 母の写真の一枚に、確かこの服を着て微笑んでいるものがあった。その視線の先にいたのは父だろうか。愛おしそうに見つめる瞳は、彼女を知らない私にさえ、幸せな日々を思わせるのに十分なほどだった。 何か 白いワンピースなんて ホントの結婚式みたい 「結人…」 衝立の陰から声をかけると、振り向いた彼が私を見て頬を緩めた。 「似合うよ。取り寄せてもらってよかった」 「何で? こんなのどうやって…」 「あとで種明かししてあげる。まだまだ序の口だぞ」 どうやらこれはサプライズの一環らしい。 「泣くのは早いんじゃない?」 私の顔を覗き込んで、結人が笑う。 私は口をへの字にして涙が滲むのをこらえながら、結人をぎゅっと抱きしめた。
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