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会場の準備が整ってみんなが席に着くと、結人はマイクを片手にして雛壇に立った。
「えー、皆さま。今日は俺たちふたりのために、こんな素敵な場を設けてくれてありがとう」
自分も主役のひとりなのに司会も兼ねるなんて、エンターテイナーなところは相変わらずだ。
「おめでたい席で、いきなり口に出すのはどうかと思うのですが、俺たちの出会いのきっかけにもなってますし、今日の主旨にも関わることですので初めにお伝えします」
結人は息をついた。
「俺たちは過去に大切な人を亡くしています」
いつものおどけた調子は欠片もなく、真剣な眼差しでマイクを握る結人に会場はしんとなった。
「俺は彼女を病気で失いました。そして、なっちゃんは恋人を事故で亡くし、母親の温もりを覚えていません」
結人はそこで言葉を切ると笑顔を見せた。
「だから、俺は今日はその3人にも参加して欲しいなって思って、準備を進めてきました。お手伝いしてくれたみんな、ホントにありがとう」
一緒に…
どうやって
結人が続ける。
「『サムシングフォー』という習慣があるのをご存じですか」
欧米ではポピュラーな、結婚式でのおまじないみたいなもので、ある4つのものを花嫁が身に付けると、幸せになると言われている。
何か新しいもの。
何か古いもの。
何か借りたもの。
何か青いもの。
そして、おまけとして花嫁の靴の中に6ペンス銀貨を入れるのだそう。
新しいものは2人の希望あふれる門出を、古いものは家族との繋がりや伝統を、借りたものは周りからの祝福をそれぞれ表しており、最後の青いものは花嫁の純潔を意味すると言われている。
「今回これを取り入れることで、それが可能になりました。なっちゃん」
「…はいっ」
不意に呼ばれて、私は弾かれたように立ち上がった。
結人が手招きしている。
みんなの視線を感じながら彼の隣に立つと、結人は私の右手を掲げて見せた。
「これは彼女のお母さんの指輪です。お父さんが大切に保管しておいてくれたものを、今日は嵌めてきてもらいました。あ、ちなみに左手は空けてあります」
会場の隅からくすくす笑いが起こった。
「そして、彼女の着ている服もお母さんのものです。サマーワンピースですが、こちらはお祖父さんが九州から送ってくださいました。白でちょうどよかった」
今度は温かい拍手が起こった。
急に注目を浴びた私は目のやり場に困ってしまい、結人の横顔を見つめたり床に視線を落としたりして落ち着かなかった。
結人はテーブルの上を手で指し示した。
「今日の料理の中に、彼女のお祖母さんのレシピで作ったものがあります。後で頂いた時にどれか当ててみてください。お楽しみに」
洋食がメインの中に お祖母ちゃんの料理
何だろう
「以上が『何か古いもの』になります。本来ならそれぞれひとつずつなのですが、多いに越したことはないだろうと、俺の勝手な解釈でだいぶ増やしてみました」
結人らしいアイディアに、みんなが顔を綻ばせる。
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