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「次に『借りたもの』ですが、こちらは亡くなった七海さんの携帯電話です。妹の愛海さんからお借りしました。はい、これが俺の元カノ」
結人はそう言いながら画面を私に見せた。
セミロングのいかにも儚げな女性が、こちらに微笑みかけている。
「今日は写真で参加してもらうね」
「…ホントだ。『すっげえ美人』」
私は結人の口調を真似た。
「でしょ。でも、今日のなっちゃんには負ける」
「今日は余計じゃない?」
「俺も見たい!」
会場から声が上がる。
結人は携帯を掲げた。
「あとで見て。目の保養にはなると思うけど、今日の主役はこっちだから」
結人が私を指差すと、みんながまたくすくす笑う。
「妹さんもお誘いしたんですが、どうしても外せない仕事があるとのことで、残念ながら欠席となってます。彼女はちょっとシスコンのところがありまして、どっちにしても俺は悪者扱いなんですよね」
結人は携帯をテーブルの上にそっと置いた。
「彼女から、俺へのお祝いメッセージをいただいてます。気持ちのこもった非常にシンプルなものでして、思わずグッときてしまいました」
おもむろにカードを取り出し、読み上げる。
「『くたばれ』以上でございます」
会場が大きな歓声と拍手に包まれた。
結人は満足げに、みんなの笑顔を見回している。
『あなた、結人の何なの』
私を睨んだ愛海さんを思い出した。
あの時は余計なお世話だと思って腹が立ったけど、彼女のその一言がきっかけで、私たちは自分の気持ちに気づくことが出来た。
大切な人を亡くした気持ちは、人それぞれだ。
きっと、これも彼女なりの訣別なんだと思った。
ひとしきり沸いたあとに静かになると、結人がまたマイクを手に取った。
「駿くん。ちょっとお願いします」
「はい」
駿くんが立ち上がって、こちらに向かってくる。
私の前に立つと、ポケットからハンカチを取り出した。
また一段と背が伸びて、私が少し見上げるようだ。
圭介の告別式で震わせていた細い肩も、今はがっしりとしてきて頼もしくなっている。
「なっちゃんね、たぶん必要になると思うので貸してあげてください」
「…ありがとう」
はにかんでハンカチを差し出す彼に、私はお礼を言って受け取った。
圭介が身を挺して守った命を、彼は今、懸命に生きている。以前はいじらしくて、見ていられないほど痛々しかったが、今日は晴れやかな顔をしていた。自分と同じくらい、彼には幸せになって欲しい。ずっとそう思ってきた私にとって、それはとても喜ばしいことだった。
「次に『新しいもの』です。まあ、皆さん、これは予想がつきますよね」
短髪にピアスがトレードマークの高橋くんが、小さなクッションを両手で包むようにして、恐る恐る運んできた。皆が口々に「頑張れー」とか「あと少し」とか声をかける。
結人がマイク越しにぼそっと呟いた。
「落とすなよー」
「わかってるよ!」
いつになく緊張している高橋くんが、顔を真っ赤にしている。何だか可愛らしくて自然に拍手が起きた。
あ リングピローなんだ
水色のクッションの上に、銀色に輝くふたつのリングが見えた。結人はひとつを手に取ると私の左手を取り、薬指に嵌めてくれた。
「今度はなっちゃんの番」
私ももう片方のリングを結人の指に嵌めた。
ふたりの左手を掲げてみんなに披露した。
拍手の中、私たちは照れくさい思いで見つめ合い、結人は私の手を掴んで引き寄せるとキスをしてきた。
会場に指笛と拍手が鳴り響く。
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