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「最後に青いものですが、これは花嫁の純潔を表すものなので、本来なら小物やブーケの中に青いものを取り混ぜたり、ちょっと遠慮がちにやるものらしいですね。今のリングピローもそのひとつです」
結人が話し始めると、何人かが席を立って外に出ていった。その中には駿くんも混じっていた。
「あとは、花嫁が身に付けた青いガーターベルトを、花婿が口を使って外すという刺激的な方法もあるんですよね。確かに夫に貞操を捧げるという意味合いではありなんですが…」
結人はそこで私をちらっと見る。
私はあわてて顔の前で手を振った。
「だよね。さすがに俺もなっちゃんの足は独り占めしたいので、すみません。却下です」
「独り占めはずるいぞ」
「それ見たいなー」
冗談が飛び交い、想像しただけで頬がほてってしまう。結人は私を庇うようにぺろっと舌を出して淡々と続けた。
「で、俺たちなりの『青いもの』を考えました。ちょっと皆さんにもご足労を願います。一度外へ出てもらえますか」
ざわめきながらみんなが順番に外に出る。一番最後に私たちが続いた。お店の裏庭に回ると、白い布を被せた何かが置いてある。駿くんがそれを勢いよくぱっと捲った。
「あっ…」
思わず声が出た。
ZZRだ。
「このバイクはなっちゃんが彼の形見として譲り受けたものなんですが、実はそれ以前の持ち主は俺だったんです。これも運命ってヤツですよね」
どよめきが起こる。
結人からそれを聞いたあと、私は彼にバイクを預けることにした。圭介を思い出してつらかったのが半分。もう半分は、結人が大切に扱ってくれることがわかっていたからだった。
「ご覧の通り、鎌倉の海のような綺麗な青です」
このバイクが、私たちを引き寄せたのかもしれない。忘れたい想いと忘れられない想いが、鎌倉で交錯したあの夏。
私が免許を取って、何かが動き出したとしたら。
ずっと、圭介が運命の相手だと思っていた。
その彼をあっけなく喪って、私は途方に暮れた。
結人にもやりきれない時期があったと思う。
それでも、這うように進んできた先に今がある。中には決められたり、抗えないものもあるけれど、自分の力で手繰り寄せたそれも、確かに運命と言えるだろう。
結人はマイクを高橋くんに預けると、私の手を引いてバイクに跨がった。私も横向きでリアシートに座った。
「ここからは撮影タイムでーす。あっ、誰か俺のスマホで撮ってくれるー?」
ハンドルを握った結人がおどけると、次々にシャッター音が鳴りだした。私はどっちを向いていいのかわからず、言われるがままに顔の向きを変えたり、結人にしがみつくような格好をさせられたりした。
みんな、笑顔で私たちを囲んでくれていた。
最後にバイクの周りに集まって写真を撮った。
青い空を見上げると、そこに圭介が笑ってこっちを見ているような気がした。
ちょっと妬いてるような困った顔をして。
でも、圭介はちゃんと私と結人を祝福してくれていると思う。
そのために結人が彼を呼んだんだ。
そう確信した。
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