桜貝のピアス

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4つの何か(サムシングフォー)』をひととおり紹介し終わって、私たちはまたお店に戻ってきた。 「そろそろお腹もすきましたよね。お待たせしました。では、乾杯に移ります」 シャンパンがグラスに()がれ、私たちもグラスを手にした。 「乾杯!」 結人の合図で、グラスが触れ合う音があちこちで鳴り響く。私もひとくち飲んだ。渇いた喉に冷たい炭酸と爽やかな香りが広がった。 ほうっと息が漏れて、知らないうちに少し緊張していたことに気がついた。 「なっちゃん。俺たちの料理はこっちに用意してもらってるから、食べなよ」 「うん。ありがとう」 お皿を覗き込んだ私は、あまりの懐かしさに声を失った。 何で忘れてたんだろう。 スパニッシュオムレツだ… 祖母のお得意で、私の大好物だった。 週に一度は食べていたかもしれない。 鮮やかな黄色の卵の中に、宝石のように散りばめられた野菜やベーコンが、きらきら輝いて見える。 ケーキのように扇形にカットされた一切れを、私はうっとりと眺めていた。じゃがいもと粉チーズ、他にもパプリカ、アスパラ、玉ねぎ、マッシュルーム、人参。湯気と一緒に、バターの香りも漂ってくる。 初めは野菜が苦手な私に食べさせようと作っていたらしいが、このオムレツのおかげで、いつの間にか野菜嫌いは直ってしまっていた。 「夏月(なつき)さん」 お皿を持ったままの私に、駿くんが声をかけてきた。 「おめでとうございます。今日の夏月さん、めっちゃ綺麗です」 「ありがとう」 「何か、嬉しいです。僕がこんな場所に呼んでもらえるなんて」 駿くんを呼ぼうと言い出したのは結人だった。 だけど、まさか駿くんをサプライズに参加させるなんて、思ってもみなかった。 「夏月さん、愛されてますね」 「なっ、大人をからかわないでよっ」 「亡くなった人を婚約披露の場に呼ぶなんて、何を考えてるのかと思ったけど、今日、ここに来てやっとわかりました」 駿くんの眼差しが急に大人びて見えて、私は言葉を継げなくなった。 「夏月さんを、本気で幸せにしたいんだなって」 駿くんが笑ってる。 初めて見た時よりも何倍も嬉しそうなその顔から、私は目が離せなかった。 「ハンカチもう1枚ありますから。遠慮しないで」 「うん。ありがと」 結人は知ってたんだ 駿くんの気持ち  あたしが幸せなら  彼もきっと笑顔になれるって 「駿くんが頑張ってるのに、あたしは心配かけちゃってばかりだったね。もう平気だよって伝えられてよかった」 「結人さんのおかげですね」 「うん」 彼の背中を見送っていた私に、結人が弾んだ声で呼び掛けた。 「なっちゃん。ちょっと休憩」 「休憩?」 「もうひとつサプライズ」 結人は得意気な顔で、みんなにも告げた。 「すみません。たった今、届いたものがありますので、お披露目したいと思います。ちょっと時間をください」
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