ターニング

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ターニング

ーー漠然と想像していた未来は、どんな冒険譚よりも刺激的で、感傷的で美しかった。 あの頃の2人なら何だって出来る気がしていたんだ。 雨が空に昇るように、地球が平坦に伸びていくように、指をパチンと鳴らせばオーロラが空に浮かびあがるように、海が真っ二つに割れて自然の水族館が出来上がるように、どんな突飛な事でも起こせるような気がしていた。 決して目立った立ち位置ではなかった。カーストで言えば中の下。良くもなければ悪くもない。そんな中途半端な僕らでも、2人なら天変地異を起こせる気がしていた。 小学生。中学生。成長するにつれそれは大きく膨れあがっていた。 僕らのこの出会いは豪のつく運命だとさえ思っていた。 でも、あの世界がそれを否定した。僕自身がそれを否定した。 高校生になっても僕らは同じ高校に通い、同じように大人になっていくものだと信じていた。 でも変わったんだ。クラスのマドンナ的立場の彼女、沢渡(さわたり)さんに出会って。 恋現。僕の眼中に映るのは沢渡さん。彼女の姿ばかりだった。 彼女と話したい。彼女の名前を呼びたい。彼女に名前で呼ばれたい。彼女に好かれたい。 そんな桃色だけが僕の青春を染めていった。 早起きしては慣れない手つきで髪をセットし、触れたこともない音楽を聞いて、好きでもない本を読んで、彼女との接点を何個も作ってきた。 そして初めて努力は結ばれるものだと知った。 僕の初恋は実らないなんてジンクス通りには行かずに見事に実ったのだった。 クラス。いや、校内のマドンナの彼氏となれば僕の株も上がるもので、いつの間にかカーストの上位に躍りでた僕は、今までにない無限の可能性を感じていた。 今まで僕に視線を向けることもなかったあいつも、興味を示さなかったあの子も、世間話の「世」の文字もなかった教師との間柄も、幼なじみでずっと一緒だった幸ちゃん。幸助(こうすけ)との関係も。 世界がまるっきり変わったように僕の人生は色づいていった。 それが最初から決められていた運命だったかのように。
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