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出てきた料理の写真を撮り、おいしく見えるように加工も終えて、余裕のある今日は食べる前にそれをSNSにアップした。
チーズとトマトと緑の葉っぱで美しく飾られたパスタを無造作に崩して、スマホを見ながら口に運ぶ。ひと回しされているハチミツが貴重なものらしくこれが限定たるゆえんなのだが、微妙な味だなと首をひねりながら三分の一ほど食べ終えたころ、一番乗りのコメントが届いた。
見なくでもわかる。やはりそれは〝マナブ〟からだった。
『うまそう~! 明日の昼は僕もそれにしようかな。限定メニューだとその近くの〝すし玄〟がランチタイムだけ開店してるの知ってますか? 夜より値段は手頃なのにネタがよくておすすめですよ』
「へぇ」
〝すし玄〟なら弘樹も知っている。そのうち行ってみようとチェックしていた店だ。さっそく検索してホームページを表示させながら、ふと独り言がこぼれた。
「この人、絶対近くにいるよな……」
もしかして会社が同じビルとか、ひょっとして同僚とかだったらどうしよう。そう思って再びぞっとした。
同人活動をやっていることは絶対に誰にも知られたくない。まあ、オフィス街のこの辺りには会社なんて無数にあるし、家賃は高いが住人もいないわけではない。それはないだろうと思いなおす。
でも――もしもマナブさんが近くにいるのなら、うれしいかもな、そう思った。
ひとりで入りづらいこんな店に一緒に行ってくれたら心強いし、好きなアニメだって同じなのだからきっと話も合う。顔も知らないのに、想像したら弘樹は楽しくなった。いつかオフ会でもして会えたらいいな。そう考えながら返信を打った。
『情報ありがとう。〝すし玄〟近いうちにいってみます』
◇◇◇
相変わらず画面上の原稿は白いままだ。
平日夜、創作にあてられる貴重な時間だ。会社に行っている間は最低限の機能で動いている省エネモード、これからフルパワーになるはずなのに、弘樹はいたずらに動画サイトを見たりで消費している。
〝リムレス仙人〟にピタをもらってから一週間経った。その間、なんとか引き延ばしつつオリジナルの話は投稿し続けたがとうとうまったくアイデアが出てこなくなった。無理やりひねり出してもひどいものになるのはわかっている。そのせいか知らないが、あれからリムレス仙人さんがピタやコメントをしてくれることは無かった。
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