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 弘樹は机に肘をついて頭をかかえた。今までのやり取りの断片が頭の中をよぎっていく。恥ずかしくって穴があったら入りたい気持ちになった。そして思い出して、すっと血の気が引いた。漫画のこと……話には出てこなかったが、どう思っているのだろう? あのマナブならその気になれば『作品を盗まれた』と声をあげることなどたやすそうに見えた。友達もたくさんいそうだし、何ならそういう法律なんかに詳しい友人もいるかもしれない。弘樹を糾弾することなど難なくやってのけそうだ。 「あーっ……」  とうとう机の上に頭を落として、ぐしゃぐしゃと髪の毛をかき混ぜる。  なんでランチの写真なんてあげてしまったのだろう。行動範囲がわかるし時間も特定できるのだから最初から危なかったのに……。後悔しても時間は巻き戻らない。  そのとき、スマホが震えてメッセージが送られてきたことを告げた。嫌な予感がしつつ見れば、それはマナブからのプライベートメッセージだった。弘樹が使っているSNSではアカウントをフォローしていれば、電子メールを送るように他人に知られずにメッセージのやり取りができる。いつもはコメントにオープンに返信してくれていたマナブが、個人的にメッセージを送ってくるのははじめてだった。  弘樹はしばらく通知を知らせる画面をながめて考えていた。  気づかなかったふりでそのまま放置してしまいたい。開けば既読の通知が相手に表示されて伝わる。そうしたらもう無視することはできない。でも……中身が知りたい。迷っているうちに、またマナブからメッセージが届いた、ポコンポコンと未読マークの数字が増えていく。三通ほど立て続けに届いたそれは、すぐに開いて確認しない弘樹への苛立ちを表しているように感じられた。いつもなら仕事をしている時間なのだから読まなくてもおかしくはない。だが、そんなことも思い浮かばないくらい、急き立てられるように焦りがつのる。  どうしよう……。まだ迷いながらも、結局弘樹はメッセージを開いた。  緊張して開いた一通目は、今日会えたことの驚きと感謝をつづった、まるでビジネスメールのような文面だった。最後は、『またぜひ近いうちに、ランチご一緒しましょう。』そう締められていた。  読み終わってほっとして、弘樹は肩の力を抜いた。 「ふーっ、なんだよ」  椅子の上に脱力して目を閉じ、天井を仰ぐ。
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