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 ドキンドキンと喉元まで上がってきそうに鼓動する心音に、「おちつけ、おちつけ」とぶつぶつ唱えながら考える。なにも『真似したな』と書かれているわけじゃない。きっと弘樹が送ったピタのお礼を言いたかっただけなのだろう。そうだ、簡単に感想でも送れば気が済むはずだ。大丈夫、大丈夫、きっと――そのときまたメッセージが来たと表示された。四通目。  逡巡したが、ずっとこの時間が続くことに耐えられなくて、やけくそになってクリックする。 『六機さんもしかして家ですか? よかったら通話しませんか?』  その後に続いていたのは、パソコンのカメラとマイクを通じて画面越しに通話ができるアプリケーションソフトのログインコードだった。 「いっ、嫌に決まってんじゃん! なにこいつッ」  ぞっとして今度こそ無視しようとマウスに手をかけたが、四行空けて続いた文章に手が止まった。 『漫画の話、ちゃんとしましょう』  今度こそ息が止まるかと思った。  貧乏ゆすりをする膝が止まらない。カリカリと無意識に親指の爪を噛みながら「大丈夫、大丈夫」と呪文のようにつぶやく。 「普通にファンだもん。俺のファン。俺の漫画のこと話そうって言ってんだよ、きっと」  口では強がりながら内心そうではないと直感していた。最初はほめて持ち上げていたが、きっと彼が本当に言いたかったのはこのことなのだ。にこにこと人当たりのいい顔で笑いながら、自分の作品をパクった弘樹の裏切りに憤り、どう断罪してやろうかと考えていたに違いない。  どうしよう、どうしよう……と焦りで頭が回らなくなる。とりあえず証拠を消さなければ。  嫌な汗で湿る手でマウスを握り、三十ページほどネットに上げていた漫画を〝非公開〟に設定しなおした。これでひとまず普通のユーザーには見られなくなる。本当は完全に削除することもできるのだが、積み上げてきたピタも消えるしフォロワーからのコメントも消えてしまう。弘樹にとっても時間をかけて仕上げたお気に入りの作品だ。この先の話だってペン入れが済んでいるのにお蔵入りさせるのは忍びなかった。まだ何とか説得できるかもしれない、淡い期待を捨てられないでいた。  例えば――そうだ、共作という形にすればどうだろうか? クレジットを変えて、原作はマナブで作画は自分。そうだ! そうすれば続けていけるし待っていてくれる読者をがっかりさせない。ピタもこのまま。何も悪いところが無いじゃないか! 「……よし」
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