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そうなればやるしかない。口下手でコミュ障の自分だから、普段ならば『無理』と尻込みするが、やるしかないのだ。ストーリーがあまりにも素晴らしくてと持ち上げて、煮詰まってしまってどうしようもなくてつい出来心でと泣き落とせば、きっとどうにかなる。相手は〝マナブ〟だ。もう何年もSNSを通じたやりとりをしているんだ。きっと情が湧いているはずだし、さっきは友達みたいに思っているってメッセージも受け取ったじゃないか。根っからの俺のファンだ。『ショックで書けなくなるかも』、とか何とか言えば折れてくれるかもしれない。
そうだ、そう言おう。
極度の緊張で震えだした手でリンクをクリックしたら、通話アプリが立ち上がり、一回の呼び出し音ですぐつながった。
「あれ? 六機さーん……」
二分割の画面の向こうには、細身のヘッドセットをつけ、おそらく設定を確かめているであろうマナブの顔が映っている。背景はそのまま自室なのだろうか。白が基調で光の入る明るい部屋に背丈ほどもありそうな観葉植物が置かれている。向こうにはギターに謎の民族楽器、スケボーも見える。本当に日本か? 西海岸とかじゃないのか? 呆れる。引くほどおしゃれだ。だけど弘樹からみたらまるで生活感の無い海外ドラマの舞台のような部屋が、彼にはぴったり似合っていると思った。
「あっれー? セッティング、チェックしてもらっていいですか? カメラオンになってますか?」
「いえ……部屋汚くて恥ずかしいんで、映像はちょっと勘弁してもらえると……」
「バーチャル背景でもいいんですけどね。僕は六機さんの顔が見たかったな」
「はは……」
なんで俺の顔なんて見たいんだよ、白々しい誉め言葉に嫌悪感が湧いたがぐっと押し殺す。
「でも、声が聞けるだけで大進歩です。今までチャットもしたことなかったですよね」
「はい……そうですね。でも、あの……たくさん、お話がっていうか、SNSで話せたので俺は……」
「うん」
唐突に友達みたいな相槌を打たれて気に障った。だが画面の向こうのマナブは真剣な顔で弘樹の声に耳を傾けている。
ノートパソコンなのかカメラは画面の上側についているのだろう。少し見下ろされるような角度で映っているマナブの顔は、やっぱりちょっと見かけないくらいかっこよかった。鼻筋がすっと通っていて、口は大きく唇も厚い。頬から顎にかけてのラインはシャープでゆるみがなく、少し眠そうにも見える弧を描いた目元は優しい印象だが、しっかりした眉毛のせいか間延びして見えず力強い。目の下くらいの長さの前髪はゆるくうねっていて、無造作にかき上げられるとぱらりと自然に顔にかかる。それがまた憎たらしいくらいきまっている。
もしかしたら両親のどちらかが外国人なのかもしれない。くっきりした顔立ちだ。
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